みすず書房

「至福千年」は、キリストが再臨して千年間の支配を執行し、そののち最後の審判をくだすという一種の終末説をその背景にもっている。そして本書があつかう西暦千年を中心とした時代こそまさに、至福千年説によって喚起された不安・恐怖がクライマックスに達した時代であったことを、フォシヨンはみごとな筆致で追求してゆく。また、オットーのゲルマン支配体制による世界帝国建設のこころみと挫折も、彼の眼差からそれることはない。西暦千年の歴史的情況を、壮大な全体図として生き生きと描き切り、そのなかから、ロマネスク芸術が生まれ、そのヨーロッパ中世が成熟してゆくありさまを、フォシヨンはすぐれた叙事詩のおもむきをもって再現する。
「西欧の芸術」、「形の生命」などによって著名な美学・美術史家であるアンリ・フォシヨンが同時に一流の歴史家でもあることを、この著者はみごとに証明している。