みすず書房

西欧型先進社会では、現在、われわれが長い間なじんで来た生存の価値やパターンは重大な挑戦を受けている。一方、技術は人類史上、比類ない物質的豊かさと効率的な社会制度を生みだしながら、精神的スラムを現出させ、一般大衆を慢性的な欲求不満に、若い人々をラディカルでアナーキーな行動に駆り立てている。このような社会不安は政治・経済の諸制度の一時しのぎの調整や、なんら本質に迫ろうとしない“価値の転換”“技術の再評価”“人間にふさわしい社会の建設”などの常套句を連呼するだけでは決して解決できないであろう。著者は、深い人類学的、心理学的な視座に立って、社会変動の要因を社会の歴史の中に探り、技術社会によって奪われた人間精神の安定、コンミュニティ、職能上の地位、アイデンティティーなど、不変の社会的要求をいかに維持し、それを技術がもたらすメリットと調和させるかを論ずる。そして“幸福な社会”としての“疑似原始社会”という目標を大胆に設定し、これを実現するには、いかなる実験が必要かを明らかにする。