みすず書房

ノンヒューマン環境論

分裂病者の場合

THE NONHUMAN ENVIRONMENT IN NORMAL DEVELOPMENT AND IN SCHIZOPHRENIA

判型 A5判
頁数 440頁
定価 7,920円 (本体:7,200円)
ISBN 978-4-622-02198-8
Cコード C3047
発行日 1988年8月25日
備考 現在品切
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ノンヒューマン環境論

本書は、ノンヒューマンな環境の独自の意味を考察しつつ、それが人間精神の発達および精神分裂病の発症と回復にどのような役割をはたしているかを論じている。従来こうした問題をとりあげる場合、心理学的には個人の発達とその人の内界および対人関係をのみ論じてきたが、著者は、系統発生論的に、さらには無生物に至るまで遡及し、人間精神の構成要素としての犬、馬、樹木、機械そして風景などのノンヒューマンなものまで視野におさめた。そして、人間精神の発達と退行とを、より一貫したものとして把握しようとしている。しかし、何といっても本書の真骨頂は、精神分裂病の精神療法についての臨床的記述であろう。そこには著者の精神療法家としての思想と類まれな資質が見事に表われている。同時に、本書が刊行された1960年当時の精神分裂病の精神療法の独特な熱気を読みとることも可能であろう。
精神医学・精神分析に興味をよせる方々は、従来の対人関係論の枠を一歩のりこえて、ノンヒューマンなものをも包摂していこうとする主張に、新鮮さと単純明快さをみて、ある種の衝撃を受けるであろう。とくに比較的重症な精神障害あるいは慢性分裂病の治療にたずさわる方々は—精神科医、看護婦、心理療法家、作業療法士など職種をとわず——本書の随所にたくさんの実践的示唆を読みとられることと思う。さらに、もっとも今日的な問題として、さまざまな地球的規模の危機一核の脅威、戦争、大規模環境破壊、人種差別など—が、いかに深く人間とノンヒューマンなものとの関係に内在しているかを読みとる方もいよう。
著者ハロルド・フェロー・サールズは、アメリカ合衆国の精神科医・精神分析家であり、本書はその処女作であって名著のほまれが高い。
(「訳者あとがき」より)

目次

フランス語版への序——再読 謝辞

 第一部 予備的考察
第1章 人間とノンヒューマンな環境との近縁性
 第二部 健康な人が経験するノンヒューマンな環境
第2章 乳児におけるノンヒューマンな環境との主観的一体性
第3章 健康な人格の連続的発達におけるノンヒューマンな環境
第4章 成熟した人間のノンヒューマンな環境に対する態度
第5章 ノンヒューマンな環境との成熟したかかわりから生じる心理的利益
 第三部 精神病と神経症におけるノンヒューマンな環境
第6章 自己とノンヒューマンな環境との混乱
第7章 ノンヒューマンなものになるという不安、あるいはノンヒューマンなものが露呈するのではないかという不安
第8章 いろいろな感情状態に対する防衛としてのノンヒューマンなものになりたいという願望
第9章 「系統発生的退行」を介した成熟追求の一機能としてのノンヒューマンなものになりたいという願望
第10章 他人に対してその人がノンヒューマンなものであるかのように反応すること
第11章 ノンヒューマンな環境の諸要素に対してそれが人間であるかのように反応すること
第12章 個人の環境概念における転移性歪曲とその他の規定困難な歪曲
第13章 患者‐治療者関係から得た詳細な資料
 第四部 文化的観点から
第14章 ノンヒューマンな環境内の人間に影響を与える文化のあり方
 第五部 未来に向かって
第15章 この主題の今後の探求によって掘りおこされる潜在的価値
訳者あとがき 文献 人名索引