みすず書房

著者ゼーリッヒ教授はオーストリアのグラーツ大学で、刑法・刑訴・犯罪学を講じ、また同大学の犯罪学研究所長を兼任した。犯罪学のグラーツ学派とは、著名な学者ハンス・グロスを始祖とし、「犯罪生物学論」の著者アドルフ・レンツを二代目とし、本書の著者ゼーリッヒは三代目にあたる。彼は広い学識で、犯罪と処罰の現象を徹底的に究明し、同時に実務活動でも大きな功績を挙げた。すなわち、グロスの創立した犯罪学研究所の所長として、被告人の犯罪生物学的調査(いわゆる判決前調査を含む)を行なって、裁判と行刑の資料を提供し、刑事鑑定人として、人的・物的証拠の収集・評価を行ない、いくたの難事件を解決に導いたのである。
本書はこのようなゼーリッヒの広い学識と豊富な実務経験の結晶であり、ドイツ・オーストリア学派の生んだ犯罪学のもっとも権威ある書物として高い評価を受けている。本書は犯罪現象に関する理論のほかに、犯罪防過に関する理論を含んでおり、これによって理論と実務とを揮然と一体化した体系にまで、まとめあげている。
この実務に役立つということは、本書の著述の動機であって、本書を手にされた実務家は、隅から隅にいたるまで、何らかの意味で重要な示唆に満ち満ちていることに、ただちに気付かれるであろう。
本書は専門の研究者・学生のほか、裁判官・検察官・弁護士・鑑定人・警察官はもとより、家庭裁判所調査官・保護観察官・行刑官・鑑別所職員など刑事司法の関係者にたいし、また一般の有志の読者にとっても、必読の書といえよう。