みすず書房

本来、〈山〉を意味したバルカンは、オクシデントとオリエント、西方西洋世界と東方アジア世界、大陸ヨーロッパ世界とオリエンタル・アジア世界をつなぐ橋の役割も果たしてきた。

中世初期、ローマ帝国が領有していたバルカン半島に土着諸民族による小国家群が成立するが、中世盛期にはオスマン・トルコに併呑される。その500年に及ぶ支配の衰退とオーストリア・ハンガリー帝国の解体のなかで、諸民族の政治的再生が始まる。第一次世界大戦後、彼らは独立を達成するが、その途は険しく、第二次大戦後はスターリン体制に組み込まれてゆく。

この半島には、クロアティア人、スロヴェニア人、ハンガリー人、ルーマニア人、アルバニア人、ギリシャ人……、狭い空間に多くの民族が住み、人種的、文化的、宗教的、経済的、社会的差異は多様であり、西ヨーロッパとは異質の多民族地域である。近・現代の各国史からは理解できぬ、このバルカンが描く複雑なモザイク模様を大きな歴史の流れのうちに横断的に考察する。