みすず書房

ピカソは言っていた。《カーンワイラーがいなかったら、やって行けなかったろう。》事実、『アヴィニョンの娘たち』の大胆さに仰天して1907年に画家が自分のために取っておく絵をのぞいて、彼の作品を全部買い取る決心をしたのは彼なのだ」(ブラッサイ)
本書は、ピカソの画商、キュービスムの理論家として現代美術史の発展に巨大な足跡を残したカーンワイラーの初の伝記である。ドイツにユダヤ人として生れ、1907年にパリで画廊を開き、二つの大戦を生き抜いたこのユニークな画商の波乱に満ちた生涯は、人間的にも、美術=市場の内幕の点でもまことに刺戟的である。ピカソはもちろん、ブラック、レジェ、クレー、マッソン等々、錚々たる画家たちの言動と駆引き、またアポリネール、ジャコブ、ブルトン等の著作の出版、さらに『キュービスムへの道』の執筆——キュービスムを中心とした現代芸術とその歴史を了解する上での、本書は基本的な一冊である。