みすず書房

北アルプス トイレ事情

判型 四六判
頁数 176頁
定価 1,980円 (本体:1,800円)
ISBN 978-4-622-03684-5
Cコード C0036
発行日 2002年7月4日
備考 現在品切
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北アルプス トイレ事情

本書は1999年7月から2000年6月まで、44回にわたり信濃毎日新聞に連載した「待ったなし北アし尿処理」を補筆したものです。山のトイレ問題はかねてより指摘されていましたが、山小屋の営業行為を見る側からは「山小屋の自己責任による対策を」との声、他方で遭難救助、登山道整備への貢献といった立場からは「小屋の公共性を踏まえた行政の援助を」との意見も出て、対策は足踏み状態でした。

シリーズはこうした状況に風穴を開ける道を探ることから始めました。ちょうどその時期に小屋経営者の間でも問題解決に向けて本格的な論議が実り始めました。それは「日本の屋根」を支える山小屋の、百年近い歴史と誇りに立脚した動きでもあったのです。記者たちは幾度となく山小屋を訪れ、時には小屋の主人と酒を酌み交わしながら激論をたたかわせました。意見が異なっても「よく来たな」と迎え入れてくれた山の「主」たちの深い懐に支えられた取材でした。

本書の訴えるところは、山小屋・行政・登山者の三者が互いに責任を押しつけず、ともに問題に取り組むことによって対策が進むということに尽きます。それは神々しいまでの北アルプスの山々が私たちに授けた知恵だったと言えるのではないでしょうか。(「あとがき」より)

目次

I 北アルプス山小屋の屎尿処理の現状
投棄、いぜん主流 / 小屋の裏手、ひっそりヘドロの沼 / ため置き、ガレ場に放流 / トイレの跡、枯れるシラビソ / ハエ・ウジ退治に殺虫剤 / 沢水の汚染・投棄との関係は? / 紙分別どころか異物も投棄
II 登山者にできること
荒れる山、自らにも責任 / トイレ費用、一部負担で / においと格闘、持ち帰り / 持ち帰っても処分に難問
III 山小屋経営者の理想と現実
常念小屋 / 槍岳山荘 / 白馬の村営施設 / 西穂山荘 / 燕山荘 / 白馬山荘 / 三俣山荘
IV 雲上お役所力学
施設改良「許可」に三年半 / 予算投入「縦割り」の垣根 / 補助金、期待できぬ現状 / 整備方式、まったくの手さぐり / 広大な山岳、予算に限り / 腰引ける? 中二段行政 / 林野庁の協力あれば
V 野外排泄
負い目と開放感のあいだで / 沢を避け、紙は持ち帰る / 平気で道の真ん中に / テント場でも無法ぶり / 山の開放感 / 携帯トイレの普及を / 量と浄化力の均衡を
VI エコトイレ最前線
独自処理、取り組み加速 / 電力の確保に大きな壁 / 快適さと環境配慮のあいだで / 合併処理槽、注目の試み / 肥溜め処理——土にかえす / 焼却——課題克服へ改良型も / 衛生公害研究所の開発——普及へ加速 / ベンチャー企業も参入し活況
VII 山と人、良い関係へ
集中傾向、分散で歯止め / 「規制」と「自由」のバランスは / 調査と啓発、登山者の手で / 山が人に求めるものは? / 自分のすべきことを問うとき
VIII そして現在——少し長めのエピローグ
あとがき

書評情報

池内紀(ドイツ文学者)
山と渓谷2011年4月号