みすず書房

「東南アジアの文化の原型は、海辺の沼地にあるのではないか」——本巻には、著者言うところの〈長篇歴史ルポルタージュ〉三部作(他の二作は『マラッカ物語』〈第5巻〉と『ナマコの眼』〈第9巻〉)の中核をなす傑作『マングローブの沼地で』とその関連エッセイほかを収める。

筆は、フィリピン・ミンダナオ島、海辺の沼地を歩くところから書き起こされる。スペインの植民地支配との闘いを語る迫真の叙述はさらに南へと転じ、スルー、ボルネオ、サラワクの歴史の風景へとゆるやかに拡がっていく——「島嶼東南アジアは、中央集権制への欲望をあまり持たないばらばらの村落だった」。

移動分散型社会に暮らす人びとの歴史と現状を鮮やかに描く『マングローブ…』に加え、「男の手料理」「民間学についての断章」など、著者の魅力的な横顔がのぞくエッセイを満載し、一冊に編んだ。