みすず書房

〈今まで「伝統」は、もっぱら封建モラル、閉鎖的な職人ギルド制の中で、むしろ因襲的に捉えられてきました。今日でもほとんど、アカデミックな権威の側の、地位をまもる自己防衛の道具になって、保守的な役割を果たしています。その不毛なペダンティスムに対する憤りから私は『日本の伝統』を書いたのです。それは私の情熱であり、一つの芸術活動だった。〉

縄文土器に出会ったとき、岡本太郎には、官製伝統論と大きく違った、もう一つの伝統が見え始めたのではないだろうか。大地に息づき、生き生きとした人たちの営みのなかにこそ伝統を見つける。足をつかい凝視し感得することからすべてが始まった。確固として構築された伝統論を集成する。

〈もしすっきりした環境に住み、感じよく暮したいのなら、もちろんパりにいればいいのです。市民的常識で、おたがいにうるさい干渉はないし、人間はなんといっても鷹揚だし、しかも外国人であってみれば、一段と私は自由です。だが、あえてこの日本で、戦いつづけたいのです。〉