みすず書房

グレン・グールド著作集 2

パフォーマンスとメディア

THE GLENN GOULD READER

判型 A5判
頁数 352頁
定価 5,830円 (本体:5,300円)
ISBN 978-4-622-04382-9
Cコード C0073
発行日 1990年11月6日
備考 現在品切
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グレン・グールド著作集 2

グールドは書いている。音楽コンクールについて(「心は熱いのに悪く言われた哀れな出場者たちを永遠にいじけさせ、精神的ロボトミーの犠牲者として見限ってしまう」)、拍手について(「拍手喝采およびあらゆる種類の示威行為を廃止するためのグールド計画」)、そして自分がなぜコンサートを開かなくなったのか、アルトゥール・ルービンシュタインとのすばらしく楽しい対話のなかで語っている。

レコーディングに関する大論文もある。(「当代の音楽的好みの特徴をもっともよくあらわす作品は何か。それを調査すれば、リストに上がってくるほとんどすべての曲目が直接レコーディングの影響を受けていることがわかるであろう。」)芸術の目的とは(「アドレナリンの一時的放出ではなく、驚きと静穏の状態を徐々に生涯かけて作り上げること」)。そしてテクノロジーと芸術については、彼自身の「マイクロホンとの恋」の思い出から説き起こす。

レオポルド・ストコフスキーやバーブラ・ストライザンドのこと。(「エリーザベト・シュヴァルツコップを除いて、ストライザンドほど大きな喜びをわたしに与えてくれた声楽家はいない」)ペトゥラ・クラークやエルンスト・クシェネクについて、音楽としてのラジオについて、ソ連とカナダの音楽の現状について。音楽の創造と享受に関してグールドの批評が縦横に展開される一巻である。全2巻。

グールド研究の第一人者・宮澤淳一氏からひとこと

この2007年はグレン・グールドの「生誕75年+没後25年」である。
グールドをめぐる催しが今年は世界各地であるが、その最大のものは母国カナダの文明博物館(オタワ=ガティノー)で9月末より始まる特別展「グレン・グールド展——天才の響き」であろう。
カナダの文明博物館は、人類の文化・文明の歴史を追い、そこに「カナダ」の誕生と歩みを位置づける常設展を主軸とした、カナダ人のアイデンティティの形成に資する施設である。つまり、ここで展覧会が開かれるということは、カナダ(人)の自己確認と対外的アピールのアイコンとしてグールドが選ばれたことを意味する。
確かにアイデンティティの問題はカナダ人グールドの思考を理解する上で大切だが、彼に「カナダ」をどこまで背負わせるべきなのか、わからない。カナダでのグールド評価は欧米や日本での人気を追いかけてきた面があるけれども、少なくとも私たち日本人とグールドとの関係は、そういう歴史・文明・文化における位置づけよりも、むしろ、もっとパーソナルな傾向が強いと思われる。
グールドの演奏ならではの躍動感、抒情性、挑発性に驚かされ、夢中になった人にとって、グールドはかけがえのない親密な友となる。その演奏をさらに聴きたいし、生涯について詳しく知りたい、書いた文章も読みたい。
要するに、グールドの「声」をもっと聴きたいのだ。録音の背後に聞こえる鼻歌だけではない。一聴して「グールドだ」とわかるあの弾き方や、自由闊達で良質のユーモアに彩られつつも、どこかはにかみがちな各種の文章や発言にも、グールドの「声」が宿っている。『著作集1・2』『書簡集』『発言集』は、まさにそうした「声」の宝庫である。録音や映像を通じてグールドの「声」に魅せられた人は、活字の中にも同じ「声」をぜひ読みとっていただきたい。