みすず書房

コルンゴルトとその時代

“現代”に翻弄された天才作曲家

判型 A5判
頁数 298頁
定価 6,050円 (本体:5,500円)
ISBN 978-4-622-04416-1
Cコード C1073
発行日 1998年3月20日
備考 現在品切
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コルンゴルトとその時代

1910年10月、ウィーン宮廷歌劇場で、皇帝F・ヨーゼフ一世の命名祝日のためのガラ・コンサートが行われた。演目は、エーリヒ・コルンゴルトの「雪だるま」…。
全曲が終わると、会場には割れんばかりの拍手が響きわたった。圧倒的な成功だった。拍手と歓声にうながされて作曲者が舞台に呼び出される。観客が目にしたのは、会場の歓呼に応えて何回もお辞儀をする小さな男の子だった。
このときコルンゴルト13歳、作品はすでに11歳の時に書かれていた。

9歳の時のカンタータ「水の精、黄金」は、マーラーを「天才だ!」とうめかせ、12歳の作、第1ピアノ・ソナタは、リヒャルト・シュトラウスを戦慄させ、13歳で作曲した第2ピアノ・ソナタはシュナーベルによりヨーロッパ中に紹介され、14歳では大指揮者ニキシュの委嘱により「劇的序曲」を書く。
1932年「新ウィーン新聞」のアンケートで、存命する最高の作曲家としてシェーンベルクと並んで選ばれたコルンゴルトの姿は、やがてアメリカに現れる、ナチスに追われるようにして。
時に映画の都=ハリウッドはまさにトーキー時代に入っていた。後のハリウッド・スタイルともいうべき映画音楽の型を、後期ロマン派手法を駆使して、マックス・スタイナー、アルフレッド・ニューマンと共に築き、アカデミー音楽賞を二度受ける。
戦後、望郷の念と純音楽に戻るべく訪れたウィーンは、コルンゴルトの目の前に荒寥として無惨な姿を曝していた…。

波乱にみちた天才作曲家の生涯と作品を、ハプスブルク帝国時代のウィーン、ナチス、亡命、マッカーシズム…、時代の諸相に重ね合わせて活写する。

目次

はじめに
プロローグ 1910年10月4日

I ウィーンの天才児
1 幼年時代
父親ユリウス・コルンゴルト/コルンゴルトが生まれた頃/ウィーンでの幼年期/マーラーとの出会い
2 神童現る
本格的作曲の開始/ヴェールを脱ぐ天才/「雪だるま」センセーション
3 天才児の光と影
快進撃続く/天才誕生の背景/コルンゴルトの思春期
4 オペラでの勝利
オペラへの挑戦/「ヴィオランタ」/コルンゴルトの軍隊生活/オペラでの勝利

II オペラの栄光と挫折
1 「死の都」
 『死の都ブリュージュ』/ルーツィとの出会い/恋人たちと革命/戦後の混乱と百花線乱の前衛芸術/「空騒ぎ」/「死の都」の圧倒的成功
2 「ヘリアーネの奇蹟」
インフレと恋人たち/リヒャルト・シュトラウスとの対立/オペレッタとピアノ協奏曲/吹き荒れるジャズ旋風/ルーツィとの結婚/オペラの季節/“新音楽”論争とコルンゴルト/歌劇「ヘリアーネの奇蹟」/「ヘリアーネの奇蹟」vs「ジョニーは演奏する」
3 オペレッタの世界へ
オペレッタとの“浮気”/ラインハルトとの出会い/大恐慌とオペレッタの流行/金融恐慌とコルンゴルト/歌劇への再挑戦/ナチスの政権獲得/ラインハルトの亡命

III ハリウッドの日々
1 新天地へ
初めてのハリウッド/当時のアメリカと映画音楽/『眞夏の夜の夢』の製作/オペレッタ映画への作曲/『海賊ブラッド』の大ヒット/最初のオスカー/放浪の作曲家
2 亡命
「カトリーン」上演の夢/『ロビンフッドの冒険』の作曲/亡命/『ロビンフッドの冒険』のスコア/第二次世界大戦の勃発/『シー・ホーク』
3 コルンゴルトと映画音楽
コルンゴルトの映画音楽作曲術/コルンゴルトの地位と業績/他の大作曲家とハリウッド/ヨーロッパのシンフォニック・スコア/ユダヤ教音楽の作曲/『嵐の青春』と太平洋戦争の勃発
4 二つの世界の狭間で
ブロードウェイでの成功/カリフォルニアのユダヤ系ドイツ人コロニー/ラインハルトの死/二つの世界の狭間で

IIII 純音楽へ戻る
1 クラシック作曲の再開
演奏会用音楽への復帰/映画音楽との訣別/ヴァイオリン協奏曲の初演
2 ウィーン——夢と挫折
着々と進むウィーン復帰計画/“死の都”ウィーン
3 失意の晩年
憤怒の交響曲/最後の作品群/最後のヨーロッパ訪問/コルンゴルトの死
4 コルンゴルトの残したもの
コルンゴルトの音楽の特性/もうひとつの1920年代/後退か完成か?/「音楽は音楽です」/現代に翻弄された天才作曲家

エピローグ コルンゴルト・ルネサンス
おわりに 
コルンゴルト作品CDガイド
参考文献
作品目録
索引