みすず書房

肉のない日

あるパキスタンの物語

MEATLESS DAYS

判型 四六判
定価 3,080円 (本体:2,800円)
ISBN 978-4-622-04550-2
Cコード C0098
発行日 1992年3月10日
備考 現在品切
オンラインで購入
肉のない日

現在アメリカの大学町に住むパキスタンの女性が、自分の半生を、祖国の激動の歴史に重ねて物語る。父はインドとの分離独立を支援し、入獄をくりかえしたジャーナリスト、母はイギリス人、そして、お祈りと食物に異常に執着する祖母のダーディ、ひき逃げされた美しい姉イファット……。舞台は、キッブリングの名をとどめる町ラホールである。著者は、新聞を執ように発行し続ける父のそばで「歴史をいやというほど食べさせられた」あげくに、1970年代にアメリカに渡った。
スレーリは言語に対する絶妙なセンスをもつ。あちこちのポケットから詩的に精確なことばを選び出して、イメージやメタファーを織り、それを夢の仕組みにも似た連想でつなぐ。辛練に、吹き出すほどユーモラスに、しかも透明な静謐をたたえてかぎりなく優美に。
本書は、ヴァージニア・ウルフを思い起こさせるような、〈女のエクリチュール〉の新しい試みでもある。西欧のフェミニズムをすんなりとは受け入れず、「第三世界に女はいない」などと、読者の意表をついてくる。
東と西の狭間に踏みとどまり、自分の位置を見定めて語る、このイスラーム世界の回想は、自伝文学の枠をはるかに超え、異文化を重層的に生きる女性の、独自の表現である。