みすず書房

戦後文学の金字塔『神聖喜劇』をはじめとする数々の傑作によって、現代日本文学の極北を独り、力強く歩み続ける作家、大西巨人。戦争直後から現在に至る、この半世紀にわたって、彼はまた比類なき思考者として、日本の思想/文学状況の根底問題への透徹した考察をエッセイに書き続けてきた。本『文選』は、示唆あふれるそれらエッセイ群から、大西自らが選び、年代順に集成した、待望のエッセイ集である。

第1巻は、思想家=作家、大西巨人のみずみずしい出発を告げる、戦後10年のエッセイを集めた。特に1952、56年の二度にわたって書かれた論文「俗情との結託」は、『真空地帯』批評を軸に、〈政治と文学〉の核心問題を剔抉した、戦後文学史に残る名エッセイとして知られるものである。他にも、志賀、太宰、中野らへの明察に満ちた批評を集めた本巻は、『神聖喜劇』への序章でもある。

巻末対話として、柄谷行人氏との対談「虚無に向きあう精神」を併せ収める。