みすず書房

マラヴォリヤ家の人びと

I MALAVOGLIA

判型 A5判
定価 4,730円 (本体:4,300円)
ISBN 978-4-622-04682-0
Cコード C1097
発行日 1990年4月12日
備考 現在品切
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マラヴォリヤ家の人びと

舞台はイタリア南部、シチリヤ島の小さな漁村。マラヴォリヤ家の当主ヌトーニ親方がうちわ豆を掛けで買って一儲けを企てた。荷を積んだ一家の漁船「天祐丸」は、宵の明星がキラキラ輝き出すころ出帆した。息子の「大仏」と近所のメニィコを乗せて。ところが真夜中すぎから強風が吹き出し、海は吠え猛る……
マンゾーニの『いいなづけ』と並ぶイタリア文学の傑作である。著者ヴェルガ(1840-1922)は従来、マスカーニのおぺら「カヴァレリア・ルスティカーナ」の台本原作者として知られてきた。しかし、彼にはもっと奥深い世界があったのだ。
著者は多彩な人物群像をシチリヤ方言を多用して土の香りとともに描き出す。訳者はこれを独特の田舎言葉に置き換え、その雰囲気を生き生きと伝えることに成功した。登場人物は自然と融け合い、自然が人間の喜怒哀楽に反応する。海はある時はヌトーニ親方の一攫千金の夢を嘲るように疾風を吹かせるかと思うと、またある時は一家をはぐくむ恵みの母となって、エメラルドの水面から豊かな海の幸を与えてくれる。
一家を襲う過酷な運命、たぎる欲望——一人一人の人間が躍動し、冷徹な現実描写の裏側から抒情性がふと顔をのぞかせる。本書がルキノ・ヴィスコンティを促して、ネオレアリズモ映画「揺れる大地」を作らせたのもむべなるかな、といえよう。
「ヴェルガは桁外れによい——農民ふうで、まったくモダーンで、ホメーロスに似て」(D.H.ロレンス)。