みすず書房

詩篇には、精神的な危機の回復をみごとに謳い、第五回高見順賞を受賞した『ゴヤのファースト・ネームは』を全篇収録。散文は、著者が久しく読み込んできた鐘愛の作家=バルザックにかんする論考とエッセーを集成した。読者待望の一巻。

なぜ、今、バルザックなのか? マドレーヌの味によって読者を酔わせたかのプルーストは、かつていみじくも、「バルザックは塩である」と喝破した。今年(2000年)で没後150年を迎えたこの巨人の、無尽蔵の文学世界はまことにわれわれの生にとって不可欠の栄養素といえよう。著者はみずから愛する、「悪のポエジー」の権化たるヴォートランを中心に、フーリエやブルトンやバルトをはじめ、漱石・荷風・光晴を援用しつつ、『従妹ベット』から『幻滅』『娼婦の栄光と悲惨』まで、多様な「人間喜劇」の宇宙の奥行きと魅力をじっくり味読し、その醍醐味を十全に伝授してくれる。恰好の道案内。全5巻。

目次

I 詩
ゴヤのファースト・ネームは(全)
母国語/ルッソーと西脇さんの帽子/歩行の原理/思考の過ちを求めて/ゴヤのファースト・ネームは/ヴァンスへの道/セザンヌ夫人/空の色/前橋へ/サン=ポール・ド・ヴァンス/川と人/幸福な思い出/疑問/しつこい不安/ニジンスキーのように/ルドン/辻潤のいた病院/批評家型の詩人/サイトウ・モキツ

II バルザックを読む——「人間喜劇」の大鍋の縁で
第1部 なぜ今、バルザック
バルザックとわたし/なぜ今、バルザック/どうしてもっと読まれないか/バルザックを読む漱石/バルザック、ドーミエ、荷風、金子光晴/中村真一郎の「『人間喜劇』の余白に」をめぐって/世紀末日本と「人間喜劇」——入門的総論として/ソレルス、バルト、バルザック/バルザックの豪雨
第2部 思想の見晴らし台に立って——フーリエ、バルザック、そしてシュルレアリスム
ジョゼフ・ド・メーストル——ナポレオンと同年に死んだ男/『ルイ・ランベール』『従妹ベット』『幻滅』から『娼婦の栄光と悲惨』まで/1820年代 パリ/滑稽(コミック)、二つのBの接近、または「人間喜劇」の精神分析とヴォートラン/〈アラブ〉とルソーのキイワードで読み解ける小説——『娼婦の栄光と悲惨』再読/ヴォークリューズから来た密偵(スパイ)/バルザックと宗教——聖ヨハネの神秘教会とは何か?/サン=マルタンの訳が出て/「人間喜劇」と『失われた時を求めて』——「バルザックを読む」のしめくくりとして
バルザック時代のパリの地図・年譜

作品ノート