みすず書房

この小さな書物を著者は序文で「私辞典」と呼ぶ。一般の辞典とは逆に、「言葉の主観的な意味を客観的に述べている」からだ。

【愛飢え男】【愛飢え女】【哀願動物】に始まり【我もの注意】【我割れ】まで、一見ワープロの誤変換か駄洒落と思える見出し語は、その語釈を読むとき、あらゆる細部が言葉についての思考と博捜と愛情に支えられていることに思い至らせてくれる。

ビアース『悪魔の辞典』や芥川龍之介『侏儒の言葉』につらなる箴言集でもあり、別役実や柳瀬尚紀のファンなら、かならずや面白いと思える笑いのセンスにあふれている。

奥本大三郎氏は本書に、こんな推薦のことばを寄せてくださった。「教養と機智と語呂合わせ——鋭い言葉のゴロが正面から飛んで来る。斜に構えて捕るべし。」

国立国会図書館に勤める著者は、夜毎の楽しみとしてこの辞典を書き下ろした。異能の人物による奇妙な文学入門といえるだろう。