みすず書房

湾岸戦争後の1990年代、パリのある種の演劇は変化をとげた。しかしこれは、今に始まったことではない。この街ではつねに、芝居小屋は現実との緊張をはらんだ場所であった。パリで芝居を見始めて30年の経験をもとに、演出家の役割がますます大きくなっている状況を具体的に語ることによって演劇と社会の関係を説く、書き下ろし評論。モリエールの戯曲『タルチュフ』が、三人の演出家ピトワゼ、ベッソン、ムヌシュキンによって、どれほど異なって創り出されるのか。深刻な経済不況、社会の狂気、自分以外の人間を愛せなくなった今日の若者は、舞台の上にどのように表現されるのか。「戦争」と「難民」の姿が、チェーホフやストリンドベリの古典をどう変容させるのか。ようやく演出家の競演が試みられ、来日公演の数も増えつつある日本で、じっさいの舞台の様子を伝え、その特質を分析する本書の意味はかつてにも増して大きい。