みすず書房

「彼らは狼を犬にし、さらに人間そのものを、人間の最良の家畜にしたのだ」(ニーチェ)。

英国の作家でゲイのトムソンはイタリア人哲学者アントニオに一目惚れし、彼を自宅に下宿させる。しかし、この美男で妻子もちの元プロサッカー選手は女好きで、若いパムを恋人にする。かくして、この三人をめぐる絶望と苦いユーモアに満ちた恋愛劇が幕を開ける。自らの情念に忠実なトムソンと一見自由奔放なアントニオ、また遅疑逡巡するパム——緻密に構成されたドラマは最後のどんでん返しでクライマックスを迎える。ここに至って、この小説は単なるゲイの悲恋を超えた、優れた芸術家小説となって立ち現われる。現代英文学を代表する長老作家の傑作。