みすず書房

《自己とは、自己と世界とのあいだ——現在の事物的世界とのあいだだけでなく、当面の他者とのあいだ、所属集団とのあいだ、過去や未来の世界とのあいだなどを含む——の、そしてなによりも自己と自己とのあいだの関係そのもののことである。》(第IV章より)

精神病理学の第一人者による、著作集完結以来はじめての論文集である。対人恐怖症、離人症、統合失調症などにあらわれるこころの病理との面接をつうじて、自己の一人称的アクチュアリティと三人称的リアリティのあいだから、「生命」と「生命それ自身」との根拠関係へと、著者の思索はさらに深まっていく。
《われわれはここで、それぞれに個別性をもってそれ自身の生存を求めて生きている個々の生命体の生命と、それを生きものとして成立させている「生それ自身」とのあいだの差異を、(…)「生命論的差異」と呼んでもよいのではないかと考える。》(第VIII章より)

その豊富な臨床経験と、ハイデガーの存在論、ニーチェの永遠回帰、フロイトの「死の欲動」、西田幾多郎の「純粋経験」などとの思想的対話をとおして、私を、自己を生きるとはいかなることなのかを論じつくす、木村人間学の到達点。

[初版2005年4月22日発行]

目次

序論
第I章  私的な「私」と公共的な「私」
第II章 時間の人称性
第III章 他者性のクオリア
第IV章 自分であるとはどのようなことか——自己性と他者性の精神病理学のために
第V章 個別性のジレンマ——記憶と自己
第VI章 〈あいだ〉と言葉
第VII章 「あいだ」と恥ずかしさ、そして証言——アガンベンを読む
第VIII章 生命論的差異の重さ
第IX章 ブランケンブルクの死を悼む
第X章 西田哲学と精神病理学
第XI章 一人称の精神病理学へ向けて——ヴォルフガング・ブランケンブルクの追悼のために
第XII章 未来と自己——統合失調症の臨床哲学試論

あとがき