みすず書房

九津見房子、声だけを残し

判型 四六判
頁数 304頁
定価 3,960円 (本体:3,600円)
ISBN 978-4-622-08925-4
Cコード C0021
発行日 2020年8月17日
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九津見房子、声だけを残し

日本初の女性社会主義団体赤瀾会を結成、多くの労働運動や産児制限運動に参加し、治安維持法初の女性検挙者となり、ゾルゲ事件に連座した九津見房子(くつみ・ふさこ 1890-1980)。社会主義のために自らの良心に従って生きつづけた九津見房子の生涯は、しかし、あまり知られていない。奔放に自分のために生きた金子文子や伊藤野枝とも、知識の女性であった山川菊栄とも違い、著作も派手な活動もない九津見房子は、ひたすら行動し、非合法の政治活動ではメモも残さないようにしていた。
本書は、文を残していない九津見房子の生涯と活動、その思いなどを、晩年の聞き書きや長女の著書はじめ、多くの関連資料を読み込んで再構成するものである。
岡山の女学校時代の社会主義との出会い、郷里出身の福田英子を頼っての上京にはじまり、治安維持法初の女性検挙者となり5年間の札幌刑務所での獄中生活、ゾルゲ事件に連座したため和歌山刑務所で過ごした敗戦後までの日々、そして戦後の人生。共に活動した女性たちはむろん、山川均、石川三四郎、高田集蔵、山本宣治、三田村四郎、宮城与徳、安田徳太郎ら近くにあった男性も含め、当時の現場の様子が、九津見房子の視点から生き生きと描かれる。
「これが日本で女が初めて参加したメーデーです」「いつも親が子どもに迷惑のかけどうしです」「わたしがしなくて、だれがするのか、という気持ちでしょってしまったんです」「自分たちのやったことが、どれだけの値打ちがあるのか、わからないのです」。今では顧みられることの少ない、社会主義のために行動した女たちの一端を映す。

目次

はじめに

I 社会主義へ
生い立ち  母うた  社会主義への関心  山川均との出会い  霜山楳乃の紹介状  出奔  福田英子の家  福田英子との別れ  石川三四郎  母の死  高田集蔵と結婚  松屋に勤める  離婚  ふたたび社会主義へ  元祥麒と金子文子  赤瀾会  メーデー参加  橋浦りくとはる子  赤瀾会の消滅  三田村四郎と結婚

II 労働運動のころ
出口王仁三郎  印刷工になる  岡山県藤田農場争議応援  産児調節運動  総同盟の闘いのなかで  産児制限の労働組合での取り組みに反対する  大阪評議会へ——女の役割に甘んじて  ソビエトのレプセ来る  婦人部問題  浜松楽器争議

III 非合法の運動へ
労働運動から離れる  地下生活へ  隠れ住む家では  北海道へ  『北海労働者』の発行  三・一五検挙  三田村のピストル事件  四・一六検挙  札幌刑務所へ  転向  救援活動  二・二六事件

IV ゾルゲの仕事、戦後
宮城与徳  検挙  安田徳太郎検挙  和歌山刑務所  戦後  「わたしはへたに歩きました」

主要参考文献
あとがき

書評情報

山陽新聞
2020年9月30日