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2014.10.21イベント情報

第II部 チェス対局 羽生善治名人 vs. 小島慎也さん(3)

『ボビー・フィッシャーを探して』刊行記念イベント「盤上の冒険者たち」ご報告(続き)

(『ボビー・フィッシャーを探して』刊行記念イベント「盤上の冒険者たち ~将棋と詰将棋のマスターが語るチェスの世界」(2014年9月14日開催)から、第II部のチェス対局の進行をご報告)

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図13(再掲)

  • [現局面は前掲@図13
  • 若島  素人目に気になるのはこの黒のルーク(h8)なんですけど、ナイトが跳ねてもなかなかこのルークはすぐには出られないですが……。
  • ピノー  h7のポーンを突いて、というのがふつうです。
  • 若島  ああ、縦から出てくる、と。

図15

17. . . a5 —————@図15
  • 若島  あ、(黒が)ポーンa7をa5に突いて受けましたね。
  • ピノー  ああ……(予想外の手に、考え込む)。
  • 若島  これでさきほどの手順のように(白のビショップをc6と)すると……
  • ピノー  黒ルークをd8に、白ルークがb1に、黒ナイトがe7に跳ね、白ルークがb6のポーンをとって……
  • 若島  黒ナイトが白ビショップをとって、白ルークが黒ナイトをとって……
  • [検討局面は@図16-vへ]

図16-v

  • ピノー  ただし、黒のルークがb8から下を……(1筋に飛んできて暴れる可能性がある)。
  • 若島  チェスをやり始めたころによく詰まされる形が…★(図中の赤の矢印)…これで詰んじゃうという(笑)。将棋ではなかなか起こりえないんですが(会場 (笑))、チェスだとよく起こる。
  • [現局面は前掲@図15
  • 若島  現在この局面です。
    持ち時間についてちょっと説明をいただけますか。
  • ピノー  お互いに10分プラス一手30秒です。
  • 若島  10分切れちゃうと、一手30秒ということですか。
  • ピノー  最初から一手指すごとに30秒プラスされます。将棋とはちょっと違う。

図17

18. Rb1 Ne7 ————————@図17
  • 若島  ふつうのチェスの対局だと、持ち時間ってどんな具合なんですか?
  • ピノー  (時代によって)結構変わりますね。私の世代だったら、チェスを始めた頃は2時間半で40手。(80年代にピノーさんが)日本に来た頃は2時間で40手から、一手ごとに時間を足せるというシステム。私の大学生の時代にはコンピュータのチェスが発明されていないから、40手指したら封じ手を書いて、次の日にまた20手進むというシステムだったんですけど、現在封じ手をやらなくなった理由は、いまなら封じ手の研究をするのは全部コンピュータに任せれば……
  • 若島  夜中にいっぱい研究されちゃう、と?
  • ピノー  まあ、(他人の力を借りて)いい手を探すというのは前からそうだったんですけど。仲間が集まって……特に当時、ソビエトの時代の強いGMが集まって。
    せっかくですのでボビー・フィッシャーに関連する話をすると、有名なヴァルナ・オリンピアード(チェスの国際大会)のときのエピソードがあります。1962年、フィッシャーが黒で優勢なエンディング(終盤)という局面で、しかも相手の世界チャンピオンはボトヴィニク(ミハイル・ボトヴィニク)だったので、若いフィッシャーとボトヴィニクだったらフィッシャーのほうが勝てそうな気がするんですけど、実際に研究によってその局面の白の守りの手を見つけたのは別の人で、エフィム・ゲラーという人でした。それで試合は引き分けになり、フィッシャーはすごく怒って(笑)。
  • 会場  (笑)
  • 若島  そりゃそうですよね。相手はボトヴィニクではなくてソビエトのようなもの。
  • ピノー  一つ、フレキシブルな発想の筋もありますね。……羽生さんらしく、攻めをやわらかく。〈白ビショップがb5からd3に引く手★を示す。〉
  • 若島  ああ、引いて。
  • [検討局面は@図18-vへ]

図18-v

  • ピノー  黒ポーンb6は守りづらいんですよ。黒ルークa8をb8にまわってそれを守ると……
  • 若島  白ルークa4でa5の黒ポーンが取れる、と。(そのとき黒が白ルークa5を黒ポーンb6で取り返すと、b1の白ルークでb8の黒ルークが取られるため。)
  • ピノー  黒はナイトe7をc8に跳ねて守ろうとすると、白ビショップd3が黒ポーンf5を取ってナイトc8にも当たる。
  • 若島  じゃあ、これ(黒のポーンb6)はもう守れないじゃないですか、そうすると。
  • ピノー  うーん、でも、ルーク・エンディング(ルークとポーンとキングによる終盤戦)になるなら、黒のポーン1個損ぐらいだったら、まだ引き分けにできる可能性はある。
  • 若島  まだ可能性はある? たとえば残っている白のポーンのがa筋の端っこの(働きの悪い)ポーンだったりすれば……(ポーン1個損でもバランスをとることが可能?)。
  • ピノー  問題はそれよりも、黒がルークh8の活用をどういうふうに狙えるかということ。
  • [現局面は前掲@図17
  • 若島  いまは黒のナイトがe7に来た局面ですね。
  • そうすると予想されるのは、白がビショップをd3に引くという手であり、黒のポーンb6を取りに来る、と。そして、どうやらこのポーンは助からなさそうだ、という話でしたか。ということは白がポーンを取れそうだから、黒のポーンの数の優勢はとりあえずなくなりそうだ、と。
  • 若島  チェスと将棋とで大きく違うところは、チェスの場合には引き分け、「ドロー」がすごく多いので……
  • ピノー  ああ、そうですね。
  • 若島  それが面白さの一つだという具合に思っていいんですよね?
  • ピノー  (引き分けがあると)不利な方は引き分けを目指す、有利な方は引き分けにしない。つまり(チェスは)引き分けから考える。負けそうな局面を逆転して勝つというというメンタリティは、将棋の場合にはありますけど、(ハイレベルな棋士どうしの)チェスの場合はめったにない。(不利な側は)考え方としては、引き分けにするところまで強い思いが届くかどうか。
  • 若島  たとえば、レーティングというか、棋力に差がある強い相手の場合には、引き分けにすることで、自分的には勝ったのと同じぐらいの価値があるということもある?
  • ピノー  引き分けで対等になるから、負けよりはずっといい。
19. Bd3 —————@現局面は前掲の検討図18-vと同じ
  • [白がビショップをd3へ引いた]
  • 若島  あ、羽生先生、やっぱり。
  • ピノー  強いですね……強い手です。たとえば白のビショップがb6からd3へ引くのでなくd7へ出る手もありますけど、d3へ引いたほうが、働きがよい形です。
  • 若島  形がいいですよね。こういう形って、なんか、将棋的に見ても美しいなあ、と。ポーンc2とも、お互いにヒモがつき合ってる。
  • ピノー  チェスで見ても、それは正しい。よく言われる、ビショップとルークはどちらが強いかという問題があって、飛車と角を比べるようなものですけれども、ビショップは将棋の角と違って成らないから、同じ色のマス目だけを動く。つまり全体の半分のマス目にしか動けない。だからルークのほうが強い、とも言えますが……
  • 若島  なるほど。ルークは白でも黒でもどこのマスでも一応は行ける。
  • ピノー  ただし、ポーンとの関係はビショップのほうがいいんですね。仲良く……(ヒモを付け合うことができる)。一方、ルークは孤独な駒です。
  • 若島  そうですよね。ルークとポーンで守り合うというのはできないですよね。
  • ピノー  ルークとポーンではお互いに相手を守れない。
  • 若島  ときどき、ルークがポーンの真後ろにきてから、前のポーンをぐーーっと突いていくというのは見ますけど。
  • ピノー  それはルーク・エンディングのとても大事なポイント。ルークは必ずポーンの後ろにくるようにする……〈最前列のお客さんに話しかけて〉勉強になりました?(笑)