(『ボビー・フィッシャーを探して』刊行記念イベント「盤上の冒険者たち ~将棋と詰将棋のマスターが語るチェスの世界」(2014年9月14日開催)から、第II部のチェス対局の進行をご報告)
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図22(再掲)
24. Ke3
- 若島 あ、キングが中央に。将棋とチェスでかなり大きく違うのは、チェスでは終盤になってくると、キングの力がすごく大きくなってくる。
- ピノー そうですね。
- 若島 しかもキングが中央に行くっていうのも……(将棋の基本とは違う)。
- ピノー キングは弱い駒ではないということは、歴史的に認められている最初の世界チャンピオンになったヴィルヘルム・シュタイニッツ(19世紀のチェスプレーヤー)が発見して……その当時そういう発想はなかったんですけど、(シュタイニッツは)“キングは強い駒だ。自分で守りもできる”、と。たしかに、チェスでは取った駒が使えないから、何かを恐れることもないので、ここ(中央に)に行ける。
- 若島 駒が全部交換になってキングとポーンだけ残っちゃうと、キングが一番強い駒ですよね。
- ピノー いや、相手のキングに対抗するのが(味方の)ルーク1個という場合でも、そんなに恐れることはないです。
- 若島 なるほど。
図25
24. . . Ke8 25. Rb6 —————@図25
- 若島 あ、戻した(白ルークをb5からb6に)。
- ピノー 戻したね……。
- 若島 やっぱり、ナイトe7をc6に跳ねられるっていうのが……(白は嫌だったのでしょうか)?
- ピノー ……(むしろ)黒のキングがd7に上がれば白のルークはf6に行こう、という発想ですね。そのときたとえば……
- 〈以下、黒のキングがe8に戻り、白ビショップがb5に出て、白のポーンをe6に突き、黒ナイトがg8に入って……といった順を二人でしばし検討〉
- ピノー まだちょっと白が指しやすいですが、それほど差がない状況です。
- 若島 黒はこの辺(盤の左上の、3つのルークおよびポーンa5が睨み合うエリア)でうまく交換して、右側の生き残りでどうか、という考え方でしょうか?
- ピノー (黒の側から見れば)ルークの交換を目指すことはちょっと考えられません。交換になると、黒のポーンが1個落ちるという状態になりますから。
- 若島 白のa, c筋のポーンが残っていて黒のポーンd5が落ちていると、a, cの筋で白のポーンが敵陣へどんどん……(容易に進むことができてしまう)。
- ピノー 特に白のポーンa2は、ビショップが白マスなので、a8まで進んだときにビショップの筋と合いますから。
- 若島 なるほど、a筋の白のポーンが成る(クイーンにプロモーションする)ために、のちのちビショップを効かすこともできるということですね。
図26
25. Rb6 Nc8 26. Rc6 —————@図26
- 若島 (本譜は)黒ナイトをc8に引いて、白ルークがc6に、と進みました。
しばらくこの辺り(左上エリア)で小競り合いが続きそうでしょうか?
- ピノー うーん……プランの間違いのような気がするなあ……。
- 若島 たとえばビショップがb5に出て、開き王手★で黒のキングを狙えるような……。
- ピノー 開き王手(!)、将棋の(笑)。
- 会場 (笑)
- ピノー いい筋ですね、たしかに(その筋も)あります。
図27
26. . . Kd7 —————@図27
- 若島 あ、黒がキングd7で直接に……(白ルークにプレッシャーをかけてきた)。そうするとまた白ルークはb6に戻るんでしょうか?
- ピノー いや……それよりもさっきの若島さんの開き王手★……
- 若島 開き王手のほうがいい?(笑) 開き王手の筋だと白のルークで直接にポーンg6を1個、取れますよね★。
- ピノー そこで黒のルークa7をb7に★まわったときにどうなるか。
- 若島 白はc6のルークをc5に引いて、黒のd5のポーンを落としにくるとか……。
- ピノー そこはいろいろありますね。黒ナイトc8を白ルークで取ってa8の黒ルークがそれを取って、白ビショップをa6とするのも……考えられるね、これも。
- 若島 ということは、この白ビショップをいまb5に出るのは十分ありそうということでしょうか。
- ピノー 開き王手ね。
- 若島 黒は何か一枚取られるかもしれないですよね、うっかりしていると。
図28
27. Bb5 Ke7 —————@図28
- 若島 やっぱり白ビショップがb5に出ましたね。
- ピノー 開き王手(の筋)ですね。
- 若島 それで黒のキングがかわしましたね。
- ピノー ここでは黒にナイトb6という手がありますね★。a8の味方のルークをb8に動かして★守りつつ、次はc4に跳ねられれば★、一息つく余地ができます。
このナイトb6という手に対しては、白はキングを上がるか、c筋のポーンを突くかですけど……白のキングがd4、c5と上がれれば、黒はポーンd5を守れなくなります。白のルークa4がd4に回って取れますから。
ただ、黒のナイトは白のビショップほど働いていないように見えますが、たとえば、ナイトがいつかa7に跳ねれば、白のビショップとルークに両取りがかかりますし……。
- 若島 あ、ほんとだ!
- ピノー ですから白が優勢ですけど、まだバランスはそれほど崩れていない。
図29
28. Rd4 —————@図29
- 若島 白はキングではなくてルークをd4の位置に回りました。
- ピノー ん……新しい。さっき言ったようにルークはポーンの後ろで使いたいので、次に白はポーンa2をa4に★突きたいわけです。
- 若島 たとえば黒のルークa7がb7に回っても、白のポーンa4とビショップb5のペアがいい形になるから。
- ピノー ただ、黒のナイトがb6に跳ねると★、白はどの程度攻め続けられるか……見えないですね。
図30
28. . . Kf8 —————@図30
- 若島 黒のキングが下がった。これはどういうことなんだろう、取れるものは取らしてあげようということ?
- ピノー (白のルークがd5のポーンを取ったら)黒はナイトをe7に跳ねれば★……(白のc6のルークとd5のルークの両取りになる)。
- 若島 いま、どうでしょう、まだ形勢は不明?
- ピノー いえ、白のほうがずっと攻めています。
- 若島 白のほうが、やや押し気味。
- ピノー そうです。ただ、これで(勝ちに)足りるかどうかという問題です。
(鍵となっている)ビショップがナイトよりもちょっと上なのは間違いないです。白はルークも積極的に使いやすいですし、駒全体の配置、特にポーンの連携も、白のほうがいい形です。白が有利なのは間違いないですけど、この有利さで勝っているかどうかは、まだ問題です。
- 若島 よくネットでチェスの対局を見ると、コンピュータの評価点数で、1.00とか0コンマ何々というふうに、点数がプラスだったら白が優勢、マイナスだったら黒が優勢というようなものが出ますが……
- ピノー コンピュータのチェスプログラムにはちょっと残念な部分があって、たとえば点数で見てマイナス30だとか、数字のよくないほうの指し手がちょっと別の方向にチャレンジの手を指せば、急にコンピュータの判断が変わってプラス50とかになる……。
最近のエピソードですけど、マグヌス・カールセンとレヴォン・アロニアンのルーク・エンディングで、アロニアンはポーンを3つ損していて、コンピュータの点数ではマイナス5というような、“そろそろ投了しませんか”というぐらいの点数が出ていて、観戦していたアマチュアの人たちが“なぜアロニアンは投了しないのか、続けるのは相手に失礼ではないか!”という意見をコンピュータの点数だけを見て言っていたのですが、じつはそれは有名な引き分けの形だったんです。だから続けるのが当然だったんです。
投了図
29. c4 dxc4 30. Rd8+ 1-0 —————@投了図
- 若島 これ、結構対局が進んですごいことになりました。
- [小島さんが投了し、対局者が握手をして試合終了。ピノーさんによれば、最後は黒の29. . . dxc4が疑問手で、もし29. . . Ne7であったら、黒は依然として苦しいけれどもすぐに投了する戦況ではなかった、とのことです。]
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