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みすず書房からのお知らせ

小社創業者・元編集責任者、小尾俊人死去のご通知

読者の皆さまへ

8月15日、小社の創業者であり、編集責任者として45年間を仕事に打ち込んでこられた小尾俊人さんが亡くなりました。89年の生涯でした。(内輪の人間ですが、退社されてから20年ほど経ち、敬意と親しみの気持ちから「小尾さん」と記します。)

「さて、自由の身となった。45年10月に故郷長野の家に戻った。仕事はやはり東京で、出版を行うほかない。私には、企画編集の経験はあった。また印刷所、紙屋などの知己もあった。しかし、金はなかった。むかしの同僚だった二人が、一人は紙で、一人は金で助けるから、新しい出版社を興そうということになった。そこから、みすず書房と名付けた一出版社が、焼跡の東京に生れた。日本橋の丸善ウラの焼ビル三階の小部屋で仕事をはじめた」
(小尾俊人『昨日と明日の間――編集者のノートから』幻戯書房、2009より)

最初に世におくった本は、1946年7月1日、片山敏彦『詩心の風光』。片山敏彦や宮本正清(以下、敬称略)との出会いからは三次にわたる『ロマン・ロラン全集』が生まれました。また、みすず書房が事務局をつとめた柊会では、丸山眞男、島崎敏樹らとの交流が深まり、そこから、現在に連なる社会科学・精神医学の本が数々誕生しました。瀧口修造らとの出会いからは『原色版美術ライブラリー』や『現代美術』『ファン・ゴッホ書簡全集』が世におくられ、霜山徳爾がボンの書店でみつけ、翻訳したフランクルという著者の本は、1956年に解説と写真・出版者の序を付けて『夜と霧』として刊行されました。1962年からは『現代史資料』の刊行がはじまりました。これは小尾さんが神田の古本屋で発掘した資料がきっかけとなり、みずからが編者となった『ゾルゲ事件』からスタートし、当初15巻の予定が、続編も含め全58巻となったものです。

このようなみすず書房を支えてきた本だけでなく、まったく売れなかった数々の本ともども、小尾さんが中心となって築いてきた本づくりの情熱の精神は、私どもの刊行物に宿り、おそらくはいまを担う私どもにも伝えられています。しかし、情熱だけではいけない。世におくった本が少しでも生命を長らえるためには、商品としての性格も冷静に見極めなくてはなりません。「社会的分業の一つとしての出版業は、二つの焦点(フォーカス)をもっています。それは、第一には、出版物が、人間の精神的生産物として、意味をもつということ、第二には、商品として、市場に流通する価値をもつということ」(前掲書)。この二つの焦点を、私どももしかと心に刻んでまいりたいと思います。

8月15日。この日は非戦を誓う日であり、小尾さんが1940年代から企画を構想し、それから30年近くなってようやく刊行なった『戦中と戦後の間』の著者、丸山眞男の亡くなった日付、さらに、『夜と霧』初版の奥付にある日付でもあります。くしくも、小尾さんは同じ日にこの世を去られました。

読者の皆さまへのご通知とともに、この場を借りまして、小尾さんのご冥福を心よりお祈りし、私どもからの感謝の意を表させていただきたく、ご寛恕をお願いいたします。

なお、故人の遺志およびご遺族のお気持ちを考え、みすず書房としては「しのぶ会」など追悼の催しはいたしません。関係者の方々のご理解を乞うしだいです。

2011年9月15日 みすず書房編集部長 守田省吾