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細川周平『遠きにありてつくるもの』

日系ブラジル人の思い・ことば・芸能

今年は日本人移民が初めてブラジルに渡った年の100周年にあたる。外務省主催による「日本ブラジル交流年」の記念事業も多岐にわたって行われている。
(外務省ホームページ「日本ブラジル交流年」http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/brazil/jb2008/index.html)
その感慨深き年に、著者の日系ブラジル文化研究の集大成である本書をお届けする。郷愁、言葉、芸能を軸に、日系ブラジル移民の歴史と文化を再考、博学多才な語りが全体像を見事に浮かび上がらせている。「故郷」についての考察をはじめ、全編にわたって読みどころの多い力作である。

「故郷を甘美に思う者はまだ嘴の黄色い未熟者である。あらゆる場所を故郷と感じられる者は、すでにかなりの力をたくわえた者である。だが、全世界を異郷と思う者こそ、完璧な人間である」(今沢紀子訳)――これは12世紀のスコラ哲学者・聖ヴィクトルのフーゴーの言葉である。アウエルバッハ経由でE. サイードが『オリエンタリズム』で引用して以来、精神的超然性と寛容を象徴するアフォリズムとして言及されることが多い。含蓄に富む警句である。しかしながら他方、そうした教養人の目線では、民衆のリアルな生はすくえない。移民先の地で引き裂かれた思いを抱き生きた人びとの人生は、実際いかなるものであったか。「ふるさとは遠きにありて〈つくる〉もの」として生きざるを得なかった移民の畢竟の想いが胸をしめつける。彼らの生活はどのようなものであったのか、それが本書の厚い叙述から浮かびあがってくる。この本は、苦難の中で、悩みながら精一杯暮らしていった日系移民の方々に捧げられている。

日本にいれば「日本人です」と自分に向かって、子どもに向かって確認する必要はない。「日本人である」ことは自明だからだ。しかし移民社会では始終そのことを背負っていなくてはならない。少数民族として生活の細部にいたるまで遠慮を余儀なくされる空間と時間、そこではいやおうなく自分の居場所を固め、「日本人です」と札を立てなくてはふんばっていられない。彼らの歴史は「日本人です」と明に暗に示し続ける歴史にほかならない。(第1章より)



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