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『谷中、花と墓地』

エドワード・G・サイデンステッカー 山口徹三編

むかし、或る雑誌でサイデンステッカー氏(以下サイデン氏と略)が日本の大家(小説家)と『源氏物語』をテーマにして対談しているのを読んだことがある。ふつうこういう場合、外国の文学者は日本人の側に(いちおう日本文学の専門家ということで)遠慮してか、あまり反論したり自説を開陳したりしないものだが、氏ははっきり自分の意見を唱えて、爽快な感じであった。対談はそのせいでか、思わぬ緊張感がただよい読みごたえがあった。それ以来、氏のイメージはこの線で固まった。本書の編者あとがきで、山口氏が「頑固さとまっすぐな物言いで知られていたサイデンステッカーさん」と書いておられる通りの印象である。
こう書くと、また写真などで見ると、サイデン氏はかなり強面の人のようであるが、じつは日本人以上に情の深い、繊細な人のように思われる。じかにお会いしたことがないから、もちろん推測でしかないが、たぶん間違いはないだろう。本書のなかに、湯島の住まいの管理を託していた福田裕さんの実家を訪ねるシーンがある。

「明治の造りだというこの家は、わずか三間。後々、台所や風呂場を付け加えただけだという何の変哲もない平屋だ……ここにきて私は何をするわけでもない。大谷川の辺りを散歩したり、春ならばちょっと歩行距離を延ばして雑木林に咲き乱れた山藤を見物する。夏は夕闇の中に蛍を探しに行ったりする程度。たいていはご馳走になったおばちゃんご自慢の煮物と酒に酔って、ゴロリと昼寝をしていることが多い。それなのに、深い満足感、安堵感に浸っていられる」

まことにうらやましく、かくありたいような生き方である。人生、骨を埋める「青山」はどこにもある。サイデン氏も日光の手前にあるこの田舎に生まれ故郷のコロラドを思い浮かべている。
米国生まれのかかる文人が思ったことを自由に書いた随筆が面白くないわけがないだろう。下町文化の美点から現代日本の惨状まで、今の日本人が忘れてしまった姿勢・スタイルがこの本にはいっぱい詰まっている。ご一読ください。


(福田裕・撮影)


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