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『マリア・シビラ・メーリアン』

キム・トッド 屋代通子訳

17世紀、昆虫を求めて新大陸へ渡ったナチュラリスト

17世紀のヨーロッパに、ナウシカばりの虫めづる女傑、昆虫学前史に大きな足跡を遺した女性研究者がいたことを、どれほどの人が知っているだろうか。

女性であることを云々するのは的外れかもしれない。ダーウィンよりも、フンボルトよりも、オーデュボンよりも早く新大陸に渡って、アマゾンの熱帯雨林でフィールドワークをおこない、リンネが生物の分類体系をつくる際に数十回も引用されている人なのだから。だけど、夫を捨てて宗教共同体に駆け込み、裁判を経て離婚し、画家として独り立ちし……という女性としての生涯も、17世紀のヨーロッパ女性にしてはえらく“のびのび”している気がして、やっぱり気になる。別の星から降って来たような変わった人だったのだろうか?

彼女が終生大切にしたものは、「母親の面倒を見ること。木を植えること。自分の目で見ること」だったという。やってのけたことの破格さと、ごくふつうの聡明な婦人らしいこの人物像がどう結びつくのかは、本書の著者キム・トッドが綿密な調査をもとに見事に描き出しているので、ぜひそちらを読んでみてほしい。実はメーリアン個人の資質だけではなく、当時の文化、科学、地政学的状況など、さまざまな興味深い背景事情が関わっている。

メーリアンが南米へ渡ったのは52歳のとき。当時の平均寿命を考えればもうおばあさんだった彼女が、昆虫の研究というおよそ浮世離れした夢への志を胸に、遺書を書き、身辺を整理して新世界へ出立したのだ。それが彼女の名を生物学前史にしっかりと刻み込んだ『スリナム産昆虫変態図譜』という仕事につながった。19世紀以前の女性研究者の業績に光が当たること自体が稀なことだが、特に生物学の分野では皆無に近い。

本書収録の口絵をみると、メーリアンが出版のために多少装飾的に描いて高額の値で取引されていた『スリナム産昆虫変態図譜』収録の絵より、私的なノートに貼り付けていた昆虫のスケッチのほうが、絵としてもいい。カラー口絵の最後のページは、絵の中の幼虫がまるで本物を見ているかのようにリアルで、それでいて第一級の工芸品にも劣らず美しい。




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