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トピックス

アンリ・エー『夢と精神病』

糸田川久美訳

20世紀フランス精神医学界の巨星、アンリ・エー。彼の「ネオ・ジャクソニズム」と呼ばれる立場を晩年に再提示した『ジャクソンと精神医学』(大橋博司他訳、みすず書房、1975)の結論において、エーは次のように書いている。

「19世紀の終わりに、3人の偉大な精神病理学者がいた。この3人のうちただ1人(S・フロイト)がエピステーメの振子運動の中で、またその運動によって、その著作の勝利と栄光を手に入れることができた。他の2人(H・ジャクソンとP・ジャネ)は、陰影の中にとはいわぬまでも、薄明の中に残された。いまやより正当な見解が、彼らの各々に再び場所を与えるべき時であろう。それぞれに充分な畏敬をもって――その基石の上に、と私はいいたいのである。」

偉大な精神病理学者たちも当然飲み込まれたように、精神医学の歴史は機械論と心因論の対立の歴史でもある。本書で議論される夢の理論についても、機械論においては、夢は「像」の寄せ集めにすぎず、全体としての意味も人格との連続もない機械的興奮の結果である、とされる。一方、フロイトに代表される心因論においては、夢はある欲望に応じたある意味を持っており、睡眠の結果でなく原因である、とされる。

エーが同じく『ジャクソンと精神医学』で述べることには、夢に関する理論のみならず、機械論と心因論はいずれも人間を精神と肉体機械とみるデカルト的二元論を超克しうるような説明ではなかった。エーは両者の対立を超えた「第3の道」を模索し、英国の神経学者であったジャクソンの論文群にその萌芽をみる(ジャクソンが終生に書いた論文・覚書は300を超えると言われる)。そして彼は、機械論でも心因論でもない「第3の道」、「ネオ・ジャクソニズム」とも呼ばれる器質力動論に辿りついたのである。器質力動論による夢の理論がどんなものかは、本書のエーの論に委ねたい。

本書『夢と精神病』は、エーが1938年にジャクソンの神経学理論を精神医学に応用し、その基石の上に書かれた主著『精神医学研究』(1948-54)のほんの一部分の邦訳であるにすぎない。偉大な精神医学者たちの「夢」というミステリアスな主題をめぐる理論に触れて、彼らの精神医学観への入門としてみてはいかがだろうか。

* アンリ・エー『ジャクソンと精神医学』は、たいへんおそれいりますが現在品切・重版未定です




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