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トピックス

『史上最悪のインフルエンザ』

忘れられたパンデミック A・W・クロスビー/西村秀一訳 [新装版]

1918年のインフルエンザ、最大の教訓

アルフレッド・クロスビー『史上最悪のインフルエンザ』が、2009年1月、新装版で再刊される。今度の版には、邦訳初版(2003年)刊行後の状況の変化を整理し、今後の課題をまとめた論説「パンデミック・インフルエンザ研究の進歩と新たな憂い」が、新たに加えられることになった。この論説は、いまあらためて1918年のパンデミックの教訓を見直し、インフルエンザ対策に向けた私たちの認識を修正する必要を訴えている。

しかし認識の修正とはどういうことだろう? 「パンデミック」「新型インフルエンザ」といった言葉はすでに、新聞の社会面や電車の吊り広告でさえおなじみのものとなっている。初版刊行以来の5年間で、私たち市民の意識も確実に高まったし、行政がインフルエンザ流行への警戒を強めているのは紛れもないことなのに──。

ところが、じつは「新型インフルエンザの恐怖」が煽られることこそ、まずいリスクコミュニケーションの典型であり、それをはじめとして昨今のインフルエンザへの警戒の仕方は、パンデミック対策としては的を外しがちだと、論説の執筆者である西村秀一先生(国立仙台病院ウイルスセンター長)は指摘している。

どうしてそうなるのだろうか。それは、たぶん本当はパンデミックの問題であるはずのものが、「新型インフルエンザ」の問題になっているからである。「新型インフルエンザ」を、インフルエンザと名前は同じでも別の病気として捉えているために、インフルエンザ・パンデミックの対策になりきれていないのである。

致死率60%というような“恐ろしい”インフルエンザの“封じ込め”対策に関心が集まりがちだが、むしろスペインかぜのように致死率2%のインフルエンザがすさまじい数の人間に感染してしまった場合にこそ想像力を至らせ、社会として備えることが必要だという。

西村先生はウイルス研究の傍ら、長年インフルエンザ・パンデミックへの地域レベルでの準備に地道に取り組んできたエキスパートで、台湾のSARS対策の現場も視察し、スパニッシュ・インフルエンザや米国の豚インフルエンザ事件の関連資料の研究・啓蒙活動にも不断の努力を尽くしてきた筋金入りの行動派だ。そういう人が、“いまこそ恐れすぎず、冷静に史実に学び、リスク管理を見直そう”という慎重なメッセージを発しているときには、それは無責任なブレーキとは対極の、真に耳を傾けるべき提言だとわかるのだ。(2008年12月)


1918年、アメリカで臨時の患者収容施設となった体育館(カバー写真より)


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