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内藤千珠子『小説の恋愛感触』

「恋愛感触」。これが本書のキーワードです。
物語は私たちを別の世界に誘う一方で、紋切り型に閉じ込める力ももっています。とくに恋愛をめぐる物語は、型への呪縛が強いのではないでしょうか。わかりやすい物語は、男と女、男性性と女性性、同性愛と異性愛、精神的な愛と肉体的な欲望、という二者択一の世界に読み手を導き、いつしか世の中の決まり事にはめこんでしまう力をもっています。そしてその底では、規範がもつ差別や暴力がひそかに温存されていることが多い。
では、一般的な性愛イメージを超えて、人と人との濃密な結びつきを描くことはできるのでしょうか。
恋愛や性をめぐる決まり事をすべて脱ぎ捨てたのちに、何があるのか。残された「恋愛感触」だけを手掛かりに、恋愛の物語を紡ぎ出すことはできるのか。本書に登場する小説は、そんな矛盾ともいえる試みをやってのけています。
「会話や性行為に頼るのではなく、犬と人間の関係に特有の、気持ちと気持ちをじかに重ねるような交わりを、梓としたい。想像しただけで房恵の胸は昂奮に打ち震えた」(松浦理英子『犬身』)
「痩せて角張った背表紙が、彼女に、彼女だけに、エクスターゼを約束してくれる。黒く輝く文字に、暴力的に引き込まれ、人格を形成するすべての要素を盗み取られ、裸にされて、皮を剥がれ、語彙を抹殺されて、人間の言語から解放されるのだろう」(多和田葉子『変身のためのオピウム』)
小説は、物語を歪ませ、文体を跳躍させ、言葉を交わらせ、恋愛の未踏の地平を切り開いていきます。既存の幸福を退けた上で、限りなく魅力的な「恋愛感触」を紡ぎ出し、紋切り型の物語を逆転していきます。
「小説を読んだ読者は、恋愛や性をめぐるあたりまえの感じ方を喪失させられ、新しいきっかけをあたえられてしまうのだ」(本書より)
そして、小説の挑戦に応じる批評の言葉もまた、超越的なスタンスから小説を評価したり、位置づけたりするのではなく、小説の身体に触れてみなければならないのではないでしょうか。小説が紡ぎ出す言葉の挑戦と、批評の挑戦を官能的に交わらせる、それが『小説の恋愛感触』です。



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