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トピックス

ピエール・ジャネ『被害妄想』

その背景の諸感情 松本雅彦訳

本書はフロイトと同時代に活躍した精神医学のパイオニア、P・ジャネが、被害妄想の実像を明らかにしようとしたものである。
ジャネは、被害妄想が「他者が自分に危害を加えてくる」という訴えにいわば結実する以前に、患者のなかに多種多様な感情があることに着目した。被害妄想の背後にどのような感情が潜在しているのか。それらの感情が社会生活にどのような影響を及ぼし、やがて妄想へと発展していくのか。ジャネは入念な観察と精緻な考察によって、言葉にしがたい感情のはたらきを言葉にすべく格闘し、日常の感情が病的な妄想へと至るプロセスを明らかにしていく。

患者に丁寧に寄り添いながら、妄想を駆動する諸感情を正確に分類するジャネの手業は、医師としても思想家としても第一級のものである。フロイトが徹底操作をとおして、葛藤をどこまでも究明し、その解消をめざしたのに対し、ジャネは患者の意識水準を高め、葛藤に惑わされないところに治療のターゲットをおいた。どちらが正しいかは断じがたいが、ジャネの治療は、精緻な心理分析を行いながらも、患者の精神的統合力を獲得させようとしている点で一貫している。

妬み、気後れ、自己不全感など、妄想の背後にある感情は、人が社会生活を営む以上、避けられないものがほとんどだ。19世紀の患者たちが持つ社会との不全感は、現代のわたしたちと驚くべき共通性をもっている。本書は古典的魅力と同時に、現代の精神医学への強いメッセージを備えている。




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