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長田弘『世界は一冊の本』

definitive edition

ちかごろ、詩集というものの来歴について考えさせられたことの一つに、ニューヨークのNew Directions Booksから刊行された『ディラン・トマス詩集』があります。これをアマゾンで注文して手に入れた理由は、栩木伸明さんから教わった詩人ポール・マルドゥーンが序文を書き下ろしているからです。マルドゥーンは、栩木さんの本『声色つかいの詩人たち』(みすず書房)の248ページに登場します。

さて本が届いて開いてみると、表紙の手描き文字タイトルには付いていない断り書きが、扉では付いていました。「The Collected Poems of Dylan Thomas: Original Edition」(左の図版がそれです)。扉裏の「履歴」には、1953年に初版が出て、1971年にNew Directions Paperback 316となり、2003年には改訂版が「Selected Poems」として出されながら、今年になってタイトルと内容がふたたび元に戻された(だからオリジナル版)と記載されています。

思い起こせば、私が初めてこのディラン・トマス全詩集を買ったのは1972年、雑誌連載中の『書架記』で吉田健一が書いていたJ.M. Dent版が欲しくて東京の古書店で見つけました。黒に近い濃紺のクロスに金で細文字が刻まれた詩集の背を、それから何十年も眺めていたことになります。もっとも肝心の詩のほうは、有名な「Do not go gentle into that good night」ぐらいしか覚えていませんが。  

こんど小社から、長田弘詩集『世界は一冊の本』(晶文社、1994年)の「決定版」を出すに際して考えたのも、詩集の来歴です。収められた詩のうち四篇の題名を「旧師の死」→「なあ、そうだろう」、「単純な事実」→「無名の死」、「何もなかった」→「母の死」、「風景」→「黙せるもののための」とあらため、詩の収載順を変更し、「青函連絡船」一篇を加える。詩人自らによる仕事で『世界は一冊の本 definitive edition』は出来上がりました。装丁には、あの詩集でありながら、べつの詩集でもある、ということを表すため、平野甲賀さんの手描き文字がどうしても必要でした。

新刊ですから、私(版元の)にとって売れ行きはもちろん気になります。けれども私(読者としての)にとって、本は売れ行きではありません。自分の本棚に背を見せている「連れ」のような存在です。ことに詩集という書物にはその性格が強いと思います。ねがわくば、この「definitive edition」が長い未来にわたって、みなさまの「連れ」となりますように。




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