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『東アジア人文書100』

東アジア出版人会議編

本書巻末に収めた中国・三聯書店の董秀玉さんの文章「東アジアの思想文化交流の復興を期待して――〈東アジア人文100〉叢書 中国語簡体字版 序文」の中で、台湾・聯経出版公司の林載爵さんの言葉が引用されている。いわく「私たちは台湾で、日本や韓国の知識人が何を思考し、どのような問題に直面しているのか、そしてどのような答えを導いているのかを知るすべがない。同じように、日本や韓国において現代中国の思想をどれだけ理解しているのかは疑問である」。まさに、その通りである。

『東アジア人文書100』は、中国・台湾・香港・韓国・日本の編集者たちが、ここ50年ほどのあいだに刊行され、今後も読み継がれるであろう自国の人文書の古典をそれぞれ選び、共有財産と相互翻訳をめざしてつくったものだ。しかし、本書に収められた(日本を除く)本や著者のほとんどを、私は知らなかった。そこには、欧米ですでに翻訳され国際的に評価を得ているもの、日本との関係で当然今までに翻訳されてしかるべきものもある。分野的にも、現代史は当然として、美術・建築・科学・哲学・文学史など多岐にわたっていて、アンテナ感覚を張りめぐらせていれば、翻訳出版の可能性のある本がひっかかってきたはずである。

欧米でこの50年ほどで刊行された人文書の名著なら、その多くは知っていると自任しているのに、この落差はどうしたものだろう。みずからの無知を脇におくなら、それほどまでに、明治以来、欧米のみに目を注いできた日本の翻訳事情と出版の歴史は根が深いのであり、1895年の台湾植民地化にはじまり、100年前の朝鮮半島への侵略とその後の日中戦争がもたらした負の歴史の渦中に、われわれはまだいるということであろうか。

いずれにせよ、どのような本が東アジアで読まれ、評価されてきたかを知ることから新たな歴史ははじまる。まずは本書を開いて、それぞれの本の紹介文を読んでいただきたい。そうすれば、数々の情報の背後に目に見えない共通の意思や歴史があることも、感じていただけるのではないかと思う。

もうひとつ、本書はそれぞれの国の本を年代順に並べているが、全体を年代順でみると、新たな発見がある。中国の場合は1958年から1978年までの本が挙げられていない。それは、中国内部の権力闘争の激化と「文化大革命」の時代に対応している。逆に、台湾・香港では、それを補完するかのように、この時期に名著が数々誕生している。また、韓国では長く続いた出版弾圧後の1980年代以降の出版物が圧倒的に多い。さらに中国・韓国とも当時発禁処分になった本の再刊がここ20年ほどに増えてきているのも特徴である。

では、日本はどうか。今回の選択のあくまで結果であるが、70年代80年代の本が圧倒的に多かった。なかでも1982年刊行のものが4冊ある。鶴見俊輔『戦時期日本の精神史』、藤田省三『精神史的考察』、前田愛『都市空間のなかの文学』、中井久夫『分裂病と人類』。そして1994年の2冊の後は、今回の選書には一冊もない。これを消費文化の拍車とかグローバリズムの一表現と総括してよいのであろうか。これもまた、今後の課題であろう。

[発行・東アジア出版人会議/発売・みすず書房]




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