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『盲目の女神』

20世紀欧米戯曲拾遺 小笠原豊樹訳

翻訳劇の上演を見に行ったことは数えるほどしかありません。ずっと昔に高校生のとき、演劇部にいた友人が文化祭で「戦場のピクニック」という演目をやって、アラバールという作者の名を覚えました。いまグーグルで調べると、1969年に思潮社から翻訳が出たばかりの「新作」だったようです。大学でも、新設の劇団に加わっていた知り合いの縁で、シェイクスピアを数本だけでしょうか。このあいだ久しぶりに劇場に足を運んで面白かったのは、橋爪功と石倉三郎が演じた『ゴドーを待ちながら』ですが、じつは開演前、この作品を「見る」のが初めてのことなので、居心地がわるいのではないかと心配でした。

翻訳劇を見る居心地わるさの一端を、本書『盲目の女神』のあとがきで訳者の小笠原豊樹さんが「じれったさ」と書いておられるのを読んで、なるほどと思いました。「どうも台詞が聞き取れない、何を言ってるのかわからない、このそぐわなさのようなものは一体全体なんなのだろう」。そこで奮起して、ドイツ語、英語、ロシア語、フランス語から、どの作品も日本に初めて翻訳されたのが、「よく聞こえる」台詞を目指した8本の戯曲です。

トラーもカイザーも、いわゆる表現主義演劇の作家ですが、ここではサスペンスドラマのように読めます。映画『ピクニック』の作者インジの「当然の気持」は、少年院から出てきた十七歳の息子が殺人を犯すまでの母親との心理ドラマ。テネシー・ウィリアムズ晩年の作品「チョークの粉」は、コーマック・マッカーシーの『ザ・ロード』を思わせるような近未来の風景のなかで、震えるような少年の心が印象的です。これまで数々の文学作品の名訳をなさってこられた小笠原さんならでは、登場人物の声が「聞こえる」だけでなく、そのしぐさや表情まで「見てとれる」ような出来栄えです。

大冊です。価格も安いとは申しません。しかし芝居を8本、頭の中の劇場で、理想のかたちでご覧になれることを思ってください。あとがきから、ふたたび引きます。「芝居の台詞というものは、モノローグや傍白をも含め、一方向への働きかけと見えて、実は反対方向への働きかけを絶えず想定している。電流の世界でいうところの交流のようなもので、この双方向性こそが芝居を成り立たせる最大の要素なのです。この本に収めた八つの戯曲には、それがたっぷり盛り込まれております。」




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