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井上義夫『ロレンス游歴』

世の中にはとかく誤解されやすいひとがいる。なかでも小説家はその被害に遭いがちである。読者がテクストを誤読する権利をもっているのも確かで、誤読が創造につながることもあり、このあたりの消息はなかなか理非をつけがたい。

何時の時代にあっても、作品の内容が〈性〉に関わってくると、まことに厄介である。ロレンスをキリストやアッシジの聖フランシスと並べて評価するヘンリー・ミラー自身も、ポルノまがいという、批難の矢を浴びてかつて満身創痍となった。

ロレンスもその例に漏れず、『チャタレー夫人の恋人』をめぐる裁判において散々な目に遭遇った。しかし、この作品の主題をよく表わしているコンスタンスとメラーズの会話を味読すれば、ロレンスが何を目指していたかは判然としている。二人が率直に〈性〉を語るこの場面は、不思議や読者の微笑を誘うのである。

ロレンスの生涯を眺めると、母親からO・モレルやフリーダまで、彼はどうも女運に恵まれなかった感じがする。よくも悪くも女性たちが彼の虚像を創り上げている気配である。ロレンスと女性をめぐるさまざまな神話を解体しなければ、この作家の真実は見えてこないようである。なべて伝記は嘘が多い。

モダニズムの旗手がジェイムズ・ジョイスならば、この大物に対抗できる作家は一人D・H・ロレンスのみであろう。本書は、ロレンス神話の虚偽を検証し、人間存在の闇に光りを当てた小説家への又とない案内である。

(カバー写真はエルゼ・ヤッフェとフリーダ・ロレンス)



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