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オニール『エコロジーの政策と政治』

金谷佳一訳 シリーズ《エコロジーの思想》完結

本書はつぎのように始まる。
「われわれが善く生きるとはなにか。“人間の幸福”をどう考え、どう定義すべきか。人がもっとも幸福に生きられるのはどんな社会体制か。人間の幸福を増進するためにはどのように政策を形成すべきか」。

上記の引用からもわかるとおり、著者オニールが想定する〈幸福〉とは、人びとがおのれの欲求や選好を満足させることではなく、人びとが社会のなかで“善く生きる”ことにほかならない。

本書がおもな批判のターゲットとしているのは、新古典派経済学の理論を支える費用便益分析(cost-benefit analysis)と政治的自由主義(liberalism)である。

費用便益分析とは、言いかえれば「選好の満足のためにいくらまで支払う用意があるか」ということだ。環境政策に費用便益分析が採用されると、非人間的存在(動植物など)や将来世代は排除されてしまうという反論がある。だがオニールはそうした反論には組さない。非人間的存在や将来世代といった、自分の意見を言えぬ者たちの選好を、現在のわれわれが代表し、われわれの選好に直接組みいれることはできる。ただしほんらい問題にすべきなのは、かれらが生きるうえで何を好むか、ではなく、かれらが生きるうえで何が必要か、であろう。幸福をあくまで個々人の主観的な欲求や選好の満足と考えていると、幸福を成り立たせる社会的な基盤を見失うことになる。

政治的自由主義は、国家とは人びとの欲求を満足させる道具であると考える。さらに進んで、異なった善の考え方にたいしては中立を保つのが政治の役割、と考える。人びとのもつ趣味や嗜好が十全に満たされるのが善い生活であり、そんな人びとの多様な欲求や選好が、多元的に保証されるのが善い社会である――そこまではいいだろう。ただし、政治の目的とは、善い生活が多元的であることを前提としたうえで、善い生活を促進させることである。もし政治が、多様な善の概念にたいしてあくまで中立であろうとするなら、政治は対話や討論ぬきで、偶然人びとがもっている理想を集計する方法となってしまう。政治は実質的な規範的議論が不要な、いわば代理市場となる。議会も政治家もいらない、というわけだ。

要するに、費用便益分析と政治的自由主義は、車の両輪のようなものなのだ。「費用便益分析は、討論ぬきで政策を与えてくれる。政治は、政策についての討論や議論の場ではなく、理想的市場が行なうと考えられていること、つまり、所与の選好のもっとも効率的な集積を実現する代理市場となるのである」。

本書にひとつ興味ぶかい実例が紹介されている。環境対策にいくら支払う意思があるか、というアンケートにたいして、多くの人が、環境的な善に価格を付けることを単純に拒否するか、または無限大の価格を付ける、と答えたのである。オニールはこの事実をこう説明している。「友人、家族、自分が大切にしている物、ある特別の景観や種の保全など、他のものへの信頼関係は、お金で売買できる商品としての扱いを拒否するところで成立している。それらを商品として取り扱うことは、その信頼関係への裏切りなのである」。

市場原理主義や新自由主義のイデオローグよりも、ふつうの一般市民のほうが、よほど健全な政治感覚をもっているようである。

シリーズ《エコロジーの思想》全7冊・完結

  • 人間は自然世界をどのように見つめ、そして働きかけてきたのか。
  • 地球温暖化、資源の枯渇、生物種の絶滅、途上国の貧困化と人口増大――
  • 今日の環境危機に対して、現代の思想家は何を説き、いかに実践しているのか。
  • 自然と生命の価値を尊重し、持続可能な社会を実現するために、
  • 人類共通の指針となるべき《エコロジーの思想》が、ここにある。
  • 「木の実をたらふく食べたあとに、その枝まで折ってしまうとは、人間はなんと邪悪な存在であろうか。」(仏陀)
  • 「人は宇宙の心である。根底においては、天と地とすべての事物が私の身体である。」(王陽明)
  • 「つぎのステップは破壊的な農業ではなく、多くの果樹やその他の植物を植えることだ。」(マハトマ・ガンディー)
  • 「地球のさまざまな美しく神秘的なもののあいだでそれらとともに生きていく人びとは、けっして孤独ではないし、また生に倦むことはない。」(レイチェル・カーソン)
  • 「森林はそこに住むすべての人の将来を保証することができることを、われわれは知っている。」(シコ・メンデス)
  • 「私は自然的共世界にたいして人間が責任を有しているという理解を、国家目標として基本法に採用することを提案する。」(マイヤー=アービッヒ)
  • 「エコロジーにしっかりと基礎づけられ、新物理学によって補強された環境倫理は、世界の多くの土着の思想的伝統と衝突するのではなく、それらと対をなし、補完し合うものになるだろう。」(ベアード・キャリコット)
  • 「人間は生き残るためだけに自然を必要としているのではなく、善く生きるためにも自然に依存しているのです。」(アンゲーリカ・クレプス)
  • 「政治は、善い生活の追求にかかわるものでなければならない。したがって、政治は、人間の実践の多様性がゆたかに花開くものとして構想されなければならない。」(ジョン・オニール)



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