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田中眞澄『本読みの獣道』

〈大人の本棚〉 稲川方人解説

2011年12月に急逝された田中眞澄さんの新刊をお届けする。といって、著者生前のプランあってのことではない。前著『ふるほん行脚』(2008年刊)の「少々長めになったあとがき」、これを編集者サイドで青写真に見立て、田中さんの最近の仕事から読書論、文学・文化史にかかわる記述をまとめ1冊の本とした(*1)
映画史関連は見送っている。むろん屋上屋を架すことにはならないにせよ、すでに『小津安二郎のほうへ』(2002年刊)『小津安二郎周游』(2003年刊)『小津安二郎と戦争』(2005年刊)といった著作がある著者のもっと異なる方向性を示しておきたかったからである。そのうえ将来、田中眞澄書誌・蔵書目録編纂会の作業が進んだ段階で、より包括的な映画論集が編まれることもありうるだろう。
結果として連載2種と単発依頼原稿2本というきわめてシンプルな構成となった。そのうち第I部「いつか来た道 とおりゃんせ」(初出「世界」2010年7月号-2011年7月号)と第III部「ふるほん行脚 完結篇」(初出「みすず」2008年3月号-2012年1・2月合併号)のばあい、何について書かれているかは目次細目(*2)からおおよそ見てとれる。その一方で第II部の「一切合切みな煙」(*3)は文字どおり煙に巻いたような表題、ふたつの章タイトルもごくあっさりとした味つけで、要するに該当ページを開いてはじめて判明するたぐいの指標だ。そこで以下、文中で引用もしくは言及されている詩篇、随筆、小説、映画を小見出し感覚でほぼ登場順につらねて補足したい。

II-1 「煙草・ユーモラスな残酷」
  • (映像作品は便宜上《 》で示す)
  • 北原白秋「煙草のめのめ」、川村花菱脚色『カルメン』、芥川龍之介「煙草と悪魔」、島木健作『生活の探求』、市島春城「たばこ」、馬場胡蝶「煙草漫談」、寺田寅彦「喫煙四十年」、夏目漱石『彼岸過迄』、小津安二郎《お茶漬の味》(1940年版シナリオ+1952年実作)、十一谷義三郎「バット馬鹿の告白」、山田珠樹「煙草」、ジェイムズ・M・バリー『マイ レディー ニコティーン』、石川欣一『煙草通』、小津安二郎《晩春》《秋日和》、萩原葉子『父・萩原朔太郎』、嘉村礒多「崖の下」。
II-2 「汽車に匂いがあった頃」
  • 中野重治「雨の降る品川駅」「機関車」「最後の箱」「汽車 三」、高林陽一《すばらしい蒸気機関車》、横光利一「頭ならびに腹」、川端康成『雪国』、中野重治「汽車の罐焚き」、島木健作『生活の探求』、村山新治《故郷は緑なりき》、伊藤整『若い詩人の肖像』、武田麟太郎「上野ステーション」、小津安二郎《東京暮色》、大宅壮一「一九三〇年の顔」、開高健『ずばり東京』、足立正生《略称連続射殺魔》、永山則夫『なぜか、海』、萩原朔太郎「帰郷」「乃木坂倶楽部」、三好達治「師よ 萩原朔太郎」。

重複は島木健作『生活の探求』1点というのがいかにも、なのだが、いずれも原稿用紙400字換算で50枚前後(初出は「ユリイカ」2003年10月号および2004年6月号)。『小津安二郎のほうへ』あとがきの言葉を借りるなら、喫煙や夜汽車といった廃れゆく習慣を「思想と世相とが相渉る場」とし、「近代日本に見られる文化のありかた」を探った煙草文学論であり鉄道文学論である。一見ふたつの連載の合間に添えられた幕間劇のようでいて、じつのところ田中さんの本領が存分に発揮されたエッセ・クリティック。
とくに後者について、詩人の稲川方人さんは「心の動きを記すディテイルにおいても、さらには氏の思想を垣間見ることにおいても出色の一篇」と評している(本書解説)。そして「〈この国が惜しげもなく棄ててきた過去〉を遡行する田中さんの真髄がそこには充分に書かれている」とも。
一読者としては『小津安二郎周游』『小津安二郎と戦争』刊行後、この種の題材7、8本ほどそろえて文化史論を展開してもらいたかったと思うが致し方ない。「手にふるる野花はそれを摘み/花とみづからをささへつつ步みを運べ」(伊東静雄「そんなに凝視めるな」)。そのように野を越え町越え、田中さんは歩み去った。いまごろ「煙草のめのめ」でも唄っているのかもしれない。

(*1) 本書は〈大人の本棚〉シリーズの80冊目にあたる。同シリーズは2001年12月に2冊同時創刊でスタート、その2冊のうち1冊が田中さんの編著『小津安二郎「東京物語」ほか』だった。
(*2) 前著『ふるほん行脚』の目次では田中さんが実際に訪れて古本を購入した書店名を挙げていたが、本書では他の項目とのバランス上割愛した。ただし小社ウェブサイト書誌情報の目次には掲載しているので、ご関心のある向きはそちらのほうをごらんいただきたい。
(*3) 「一切合切みな煙」は、もともと「煙草・ユーモラスな残酷」初出時の副題としてあったのを横滑りさせて第II部総題としている。







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