みすず書房

束見本と本の箱に絵をかく

秋庭史典『絵の幸福――シタラトモアキ論』

2020年9月28日

「絵をかくとはどういうことか」がわからなくなった画家。
ひざを抱えて酒びたりの日々をイメージしてはいけない。
芸術大学で学生に教え、対話をし、毎日かきつづける。実験と試行錯誤。
その営みを美学研究者が追った。言葉で思考する美学者と絵で表現する画家の邂逅から本がうまれた。


他人によって「あなたはおかしい」とされ、自分でもよくわからないままその規定を受け入れ自分をなきものにしてしまうのを避け、生き延びるためにはどうすればよいか。

なぜキミはこのジャンルを選んだのか。キミはこの芸術ジャンルの本質を何と考えているのか。なぜキミはこのような手法を選んだのか、その手法はジャンルの本質にかなっていると言えるのか。なぜキミはそこにこの色を置いたのか。

キミのやっていることは、いかなる点で先行する芸術作品よりも新しいと言えるのか、テクノロジーの発展したいま、なぜキミは、「絵」などという時代遅れなものを制作しているのか。欧米ではここまで進展しているのに、なぜキミはこんなことをしているのか? …… (本書「はじめに」より)


絵の幸せとは何か、画家にとっての幸せとは何か、そして、幸せについて考える試みの本。

第二部は画家シタラトモアキと絵画を学ぶ大学院生との対話です。
文字校正という慣れない手間取る作業に、画家はうんざりされているのではないか…
編集者はそんなことを心配し、出来上がってきた「束見本(つかみほん)」の余った一冊を画家に送りました。やがて本になりますよという励ましと、少しの「たくらみ」を込めて。
束見本とは、出来上がりの仕様どおりに、なにも印刷されていない紙でつくる真っ白な本です。真っ白なページにはなにかをしたくなるもので、日記とか備忘録とかスクラップブックとかに使いたいと、欲しがる人がたまにいます。

案の定、数日後には画家から「白い本に絵をかきはじめました」という知らせが届きました。
さらにしばらくすると、「本の箱」を20個注文できないか、という依頼がありました。
箱に絵を描きたいのだそうです。

近年、本の箱をつくる工場がどんどん減っています。今回は本と同じく図書印刷さんが,ひとつずつ手作りで箱を製作してくれました。真っ白い本を手にした瞬間、昔は多くの本が箱入りであったわけを、わたしは初めて理解しました。本は箱に入って完結するというか、美しいのです。
期せずして、本と芸術作品の誕生がシンクロした出来事でした。

「自分を自分として生きるという希望、すなわち自由」という帯に使った本文中の言葉を、画家はかみしめているそうです。「自分を自分として生きる」のが困難な世の中です。


2020年秋、4か所で画家・設楽知昭の絵を鑑賞できます。

設楽知昭個展 秋庭史典著『絵の幸福──シタラトモアキ論』出版記念展
(束見本と本の箱の作品が展示されます)
不忍画廊(東京・日本橋)10月2日(金)-24 日(土)
http://shinobazu.com/news/26103/

設楽知昭退任記念展
愛知県立芸術大学サテライトギャラリー(名古屋)10月10日(土)-11月8日(日)
https://www.aichi-fam-u.ac.jp/news/item/dm_omote_ura.pdf

「絵の回路」──設楽研究室の展覧会
愛知芸術文化センターB2(名古屋)10月6日(火)-18日(日)
https://www.facebook.com/events/351090509348436/

CADAN Showcase 04
CADAN有楽町 10月9日(金)-11月1日(日)
https://cadan.org/cadan-showcase-04/