みすず書房

監訳者よりメッセージ

ホーランド他『子宮頸がんワクチン問題』別府宏圀監訳

2021年8月27日

本書「序文」より

これは私たちの社会のさまざまな場所で、若い世代の健康と保護よりも経済的利益が優先されてきた結果、世界中で起きている悲劇の実例なのである。…すべてのワクチンは、誰にとっても安全でなければならないし、またそれは実現可能なことなのである。
私たちの将来は医療倫理の尊重にかかっていることをヒポクラテスの誓いは教える。

「何よりもまず、害を与えてはならない」

リュック・モンタニエ(医師・HIVの発見によるノーベル賞受賞者)

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徹底した取材と調査が結論を導き出す

別府宏圀(医師・本書監訳者)

The HPV Vaccine on Trialと題するこの本が米国で出版されたのは2018年のことである。ガーダシルが米国で承認されたのは2006年、サーバリックスは翌2007年にオーストラリアで承認された。これらのワクチンによる副作用の被害はすでに臨床試験段階から世界各国で報告されていたのだが、これほど徹底した取材と調査に基づいてまとまった情報を提供してくれる書籍はそれまでになかった。

世界中で多くの少女たちがこのワクチンの副作用に苦しみ、放置され、無視され、詐病と罵られ、心身両面で傷ついていたのだが、ごく一部の医療者・研究者を除けば救いの手を差し伸べる人はいなかった。この本によって、やっと彼女らは抗弁する基盤を与えられたことになる。

この本の著者は、メアリー・ホーランド(元ニューヨーク大学法科大学院教授)、キム・M・ローゼンバーグ(弁護士)そしてアイリーン・イオリオ(フリー・ライター)の三人の女性である。イオリオは金融関連のテーマを書くことが主だったが、子どもがワクチン被害に遭ったことからワクチンの安全性問題に関わるようになった。

三人とも医学・薬学に関しては専門家ではないが、丹念な取材と調査に裏付けられた本書の記述は正確で、平均的な医療関係者や自然科学研究者の書いた文章よりも親しみやすく、ノンメディカルであることがむしろ利点となって、先入観やバイアスを排して説得力のある、適切な結論を導き出している。

新型コロナのパンデミックに遭遇したことで、いま世間の目はワクチンに向けられているが、専門家とされる人々の論理がときに破綻し、ときに迷走する状況をみていると、非専門家の視点と感覚がいかに重要であるかを思い知らされることがある。もちろんそれらが真価を発揮するためには、詳細な調査と周到なチェックが前提となり、疑わしいことがあればたとえ相手がどんな権威者であってもそれに臆せず問いかける姿勢が求められるが、その点でも読者は教えられることが多いはずである。

科学の基本は疑うことにあるからであり、この本はそのような意味からも医療関係者、医学研究者たちにもぜひ読んで欲しい。

今回、みすず書房が日本語版に用意したタイトルは「子宮頸がんワクチン問題――社会・法・科学」となったが、このワクチンが少女たちにもたらしたものは、身体的な被害だけでなく、社会から放置され、阻害され、攻撃されるという精神的な被害でもあり、その責任は企業・医学・国・メディアにあることを考えれば、英語版よりもこのタイトルの方が問題を正しくとらえていると言えるのかもしれない。

大勢のボランティアが協力してこの本の翻訳が行われたことも、この本の魅力を物語っている。予期したよりも多くの労力を要したが、振り返ってみれば楽しい時間であり、できるだけ多くの人々にこの思いを伝えたいと願っている。