みすず書房

メタバース・SNSの時代に、読む

マイケル・S-Y・チェ『儀式をゲーム理論で考える』安田雪訳

2022年6月10日

星野源の収録ライブが、昨晩(2022年6月9日21時)から、オンラインゲーム、『フォートナイト』内で配信が始まった(3日間限定)。何人かのゲーム実況者がYouTube Liveで配信(公式が認めている)している動画を見ていたのだが、ゲーム内の大スクリーンで歌う星野源にあわせて、友人とともにゲームキャラで恋ダンスを踊り、曲によって変わるゲーム的要素を楽しむ様子が流れていた。『フォートナイト』では、同様のイベントが既に何回か開催されており、アリアナ・グランデ、米津玄師などが登場している。このように、『フォートナイト』は、メタバース(仮想空間、バーチャル空間)の典型事例として、たびたび取り上げられているが、他にもゲーム内で、カスタムで島(と呼ばれている)を造成し、カスタムで独自ルールのゲームを設定することができ、ゲーム制作者とゲーム参加者の間でコミュニティ、SNS的な世界ができている。

昨年(2021年)、SNSの一大企業、フェイスブックが、社名をメタ・プラットフォームズ(通称メタ)に変更し、メタバースという言葉の流行を後押しすることとなる。メタ社は、特にVRを使用したメタバースに注力しており、VR空間内での仕事場Horizon Workrooms(VRヘッドセットを付けて、オンライン会議やパソコン作業ができる)、VR空間内でのコミュニティ、ゲームを制作・参加できるHorizon Worldsなどを打ち出している。現在、ZOOMやTeamsによるオンライン会議が日常となったが、VRヘッドセットによる会議が日常となる日がくるかも知れない。

アメリカン・フットボール、NFLについては門外漢なのだが、毎年のスーパーボウルのハーフタイム・ショーの話題については、どこからともなく情報が入ってくる。過去にはローリング・ストーンズやマドンナ、2022年はエミネムなど、錚々たるミュージシャンが登場するからかも知れない。そのスーパーボウルの放送中に流れるCMの広告料が、2022年は30秒で約7億円だったとのことである。本書『儀式をゲーム理論で考える』の原書初版が刊行されたのは2001年だが、なぜこのスーパーボウルのCMの広告料が高いのか、ゲーム理論の「協調問題」「共通知識」の概念を使って解明している。2022年のスーパーボウルでは、メタ社はCMを提供し、Horizon Worldsを宣伝しているが、フェイスブックの創業者でありメタ社のCEOであるザッカーバーグは、「23冊の必読書」の一冊として本書を選び、「ソーシャル・メディアをデザインするうえで、重要な考え方を提供している」とコメントしている。

『フォートナイト』が一定期間の収益をウクライナ支援に全額寄付を行った、とのこと4月にニュースになっていたが、本書の著者チェは「新版へのまえがき」(2022年3月)で、「虚偽であり憎しみに満ちた考えも共通知識を作り、きわめて恐ろしい結果をもたらす集合行為やアイデンティティの形成を促します。期待をもたれ希望に満ちていると考えられていた多くの新しい技術が、この惨状をもたらしています。」と述べ、メタバースが更に拍車をかけるであろう、SNS時代に警鐘をならしている。そして、その本質を2001年に見抜いていたように思われる。新しい可能性が拡がると同時に、安易に共通知識が生成され、妄信が固定化されるこの時代に、示唆に富む書である。