2014.03.19
國井修「今世紀最悪の緊急事態に立ち向かう」
[書評]ポール・ファーマー『復興するハイチ』岩田健太郎訳
[13日刊]
2014.03.10
ヴェールを剥ぐと、真理が露わになるのだろうか。
宗教的な規範として女性を覆い、キリストの遺骸を包み、引き裂かれて真理を啓示する「ヴェール」。西洋思想を深く規定してきたこの布に、エクリチュール・フェミニンの旗手と、20世紀を代表する思想家が答えた。脱構築の営為が目の前でまざまざと展開する、スリリングな応答だ。
シクスーは原書で約7ページ、デリダは約60ページと、大半がデリダのテクストという構成をとっている。
シクスーの表題「サヴォワール」はフランス語で「知る」「知」の意味。見ることと知ること、そしてヴェールとの関係が問われる。盲目に近いほどの強い近視をもつ語り手は、シクスーの分身でもある。
続いてデリダは「蚕」という奇妙な名のテクストで、シクスーの問いを受ける。緻密な思考が展開されると同時に、きわめて自伝的な色彩の濃いテクストだ。じっさい、デリダは子どもの頃に蚕を飼っており、桑の葉を探しに行っては蚕に与えていた。そして、靴箱の中の蚕たちが分泌し変成する様をじっと見ていた。
〈蚕蛾が繭の上でそうするようにして、宙吊りになったひとつの文が、誕生時に、詩の上で羽をばたつかせる。この高みから、羽のついた署名が動き出し、こうしてテクストの身体を照らし出す……〉(「蚕」)
〈「蚕」というテクストは、自己の身体から糸を繰り出すことによって生き、そして死んでゆくこの虫が、生と死との関係、「自己性」、自然と技術の関係、植物と動物の関係、性的差異、そして究極的には「真理」の主題について、私たちに根本から再考を促す驚異的な動物であることを告げている。〉(訳者解説より)
蚕という小さな虫が伝統的な真理概念を書き換えていく様は、まさに驚異である。決して大著ではないが、デリダのあらゆる著作のエッセンスが込められた、きわめて重要な著作だ。「「蚕」、あるいは、脱構築の告白」と題された訳者解説も必読である。
2014.03.19
[書評]ポール・ファーマー『復興するハイチ』岩田健太郎訳
2014.03.10
全3巻 [第1巻 18日刊]