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2016.04.26トピックス

現代美術に拓いた地平の意味 初の本格的李禹煥論

ベルスヴォルト=ヴァルラーベ『李禹煥 他者との出会い――作品に見る対峙と共存』水沢勉訳

1960年代末から起こった「もの派」運動の柱として知られるアーティスト、李禹煥。韓国慶尚南道に生まれ、1956年に来日。60年代から70年代の制作をつうじて、「周りは他者の国であり世界は未知」という感覚が、李の芸術の中でごく自然に「対話」や「出会い」の概念へと発展していきました。
そこから生まれた連作、〈点より〉〈線より〉〈関係項〉、〈東の風〉〈風より〉〈風と共に〉、そして〈照応〉〈Dialogue〉は、世界各地の美術館でおこなわれた大規模な個展、多くの国際展で高い評価を受けることになります。2010年には直島に李禹煥美術館(建築設計:安藤忠雄)が、2015年には韓国の釜山広域市立美術館に「李禹煥空間」が開館し、その仕事をまとまったかたちで観ることができるようになりました。

しかし、そこから一歩進んで、李の芸術の全体像をみわたし、現代美術の文脈の中にその仕事を的確に位置づけて理論的に分析する仕事は、これまで充分になされてきたとはいえませんでした。本書は、つねに新たな表現のありかたを模索してきた李禹煥の創作が現代美術に拓いた地平の意味をきめこまかに論じ、初の本格的作家論としてまとめた、初めての仕事といえます。

1970年生まれで、美術史・哲学・文学を学んだ著者ジルケ・フォン・ベルスヴォルト=ヴァルラーベは、現在はボッフム・ルール大学美術コレクションのジトゥアツィオン・クンスト財団で理事長を務めます。ボッフムのハウス・ヴァイトマル公園にあるthe MuT — Museum under Tage (Museum Underground)は、現代美術と出会える刺激的な場所として多くの美術ファンが訪れますが、この公園には、石と鉄板を使った李の作品〈関係項 – 森の道 I 〉〈関係項 – 森の道 II 〉も展示されています。
現代美術作家との交流、育成をつうじて、アーティストの創作の瞬間に向き合い、李の芸術を間近に見てきた彼女が2007年に博士論文としてまとめたこの李禹煥論は、フライブルク・アルベルト=ルートヴィヒ大学哲学部ヴェッツシュタイン賞を受賞。すぐに一般書籍としてドイツ語版・英語版、ついで韓国語版が刊行されました。

自身の身体をつうじて得た作品体験によって論述の土台をしっかりとかためるとともに、『余白の芸術』をはじめ、的確に選び抜かれた李禹煥のテキストに、西欧と日本の哲学、文学も援用しながら、その創作を解き明かすゆたかな手がかりとする――そのバランスのみごとさ。同じところにとどまらず、進化しつづける李禹煥の作品を対象としながら、年月を経て読んだとしても、すこしの補足も必要としないで読まれうる普遍性を備えています。

ぼくは東アジア出身ではあるが、長い間東アジアとヨーロッパを絶えず往来しながら活動してきた。ぼくの表現は東アジア的な発想やヨーロッパ的な方法や個人的な性格やその他いろいろな要素が絡み合っているに違いない。ヨーロッパの作家がそうであるようにぼくは、東アジアを代表しない。重要なのは、その人の遠い背景ではなく、今自他が共有する具体的な現実なのだ。
(『余白の芸術』の英語版The Art of Encounterのあとがきより)

李自身がこう述べているのに呼応するかのように、本書は「アジア」という生得的な背景に寄りかかって作品の分析に結びつけることなく、リチャード・セラ、ロバート・モリス、サム・フランシス、バーネット・ニューマンらの作品との比較によって、精緻に論じてゆきます。

李禹煥の作品は、はっきりと区切られた存在ではなく、むしろ、たとえるならば、状況であり、関係のフィールドであり、具体的な出来事の痕跡である。その結果、そのたびごとに一回限りの特別な、開かれた、しばしば儚い体験の所与として受けとめられることになる。以下の論文は、こうした開放性に対してふさわしいものであろうとしている。(……)それぞれの章が個々の作品に関連づけられ、さらにそれ自体で完結しているように、本研究はけっして線的な展開の図式に則っているものではない。すなわち相互に依存していないので、好みに従って自由な順番を決めて読んでかまわないのである。
(著者による序「李禹煥の作品と現代」)

鮮やかな出会いの芸術へ開かれた、柔軟な通路。そんな魅力的な作品・作家論が誕生。

ベネッセアートサイト直島 李禹煥美術館
http://benesse-artsite.jp/art/lee-ufan.html

釜山広域市釜山市立美術館 李禹煥空間
http://art.busan.go.kr/jap/06_other/other04.jsp

◆李禹煥『時の震え』を新装版として刊行しました

その筆致は、あまりに人工、清浄、整然に過ぎた都市に罅を入れ、あまりに透明になった人間の奥底に潜む野生を引きずり出す。刻んできた時の狭間をわたる自伝的エッセイ集。
本書、ベルスヴォルト=ヴァルラーベ『李禹煥 他者との出会い』の刊行とあわせて新装復刊いたしました。

◆李禹煥『出会いを求めて』[新版]を5月刊行予定です

1960年代末、「もの派」を主導した李禹煥の幻の評論集の新版。自ら決定版とみなす全面改訂版(美術出版社刊)がよみがえります。


ベルスヴォルト=ヴァルラーベ『李禹煥 他者との出会い――作品に見る対峙と共存』水沢勉訳(みすず書房)カバー



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