みすず書房

デリダが問う〈ヨーロッパと民主主義〉 [新解説]國分功一郎

ジャック・デリダ『他の岬――ヨーロッパと民主主義』[新装版] 高橋哲哉・鵜飼哲訳 國分功一郎解説

2016.05.27

〈現在、ある比類なき事態がヨーロッパにおいて、依然としてヨーロッパと呼ばれる=おのれを呼ぶところのものにおいて進行している。実際、今日このヨーロッパという名前を、いかなる概念に、いかなる実在の個体に、いかなる単一の存在体に割り当てるべきだろうか? 誰がその境界線を描くのだろうか?〉
ソ連・東欧の崩壊後、噴出するナショナリズムと人種主義の暴力が、統合を進めるヨーロッパに暗雲を投げかけている。近代民主主義を発明した「アジア大陸の小さな岬」(ヴァレリー)はどこへ行くのか。激動の渦中にあって、〈キャップ〉という語を軸に、脱構築の哲学者デリダが〈ヨーロッパと民主主義〉を新たに問う、注目の書。

ここに記したのは今から23年前、1993年3月刊行のさいのカバー裏説明だが、いま、多少の文言を変えるだけで十分通用するほど、同じような課題に、ヨーロッパも日本も直面している。そのことを、どう考えればよいのだろうか。

デリダは別の本で言っている。「出来事はやって来るものであり、そしてやって来ることにおいて、私を襲撃して驚かせに来るのである」。つまり、襲ってきた出来事はわれわれの理解を超えており、われわれは事後的にじっくり考えることによってしか理解できない、だから当座は、出来事を理解できていないということへの勇気が必要である、と。

90年代初めの出来事がヨーロッパの統合に暗雲を投げかけているとすれば、現在の出来事は、統合されたヨーロッパの存在の妥当性が問われているのだろうか。「グローバリズム」という時代をへてきた今、ヨーロッパでいま直面している問題は、アジア大陸極東の小さな島国の現在とどう関わってくるのか。

解決するためではなく、新たに問いつづけ、じっくり考える。上に記したデリダの言葉のニュアンスも頭におきながら、『他の岬』新装版をどうぞご覧ください。今回付けられた國分功一郎氏による「二重の責務」という副題のついた鮮やかな解説も、ぜひ。