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2019.01.18トピックス

この企業が中国人の生活を変えた――『アントフィナンシャル』巻頭序文を一部公開(2/4)

廉薇・辺慧・蘇向輝・曹鵬程『アントフィナンシャル――1匹のアリがつくる新金融エコシステム』永井麻生子訳

(黄益平氏による序文を一部公開)

アントフィナンシャルの営業活動は、金融環境やデジタル技術、行政上の監督をはじめとする一連の条件による拘束を受ける。この三つの条件の変化が同社の生存可能性と発展の道筋を決めると言っても過言ではない。

第一に、中国の金融システムは巨大であるが、そのサービスは充分には行き届いておらず、広大な空白地帯が存在する。今日すでに金融機関と金融資産は多様化しており、その数も莫大である。しかし、この金融システムのサービス対象はかなり限定的で、大企業および国有企業、純資産総額が100万ドル以上という富裕層が主流である。金融機関は通常、所得上位20%の顧客にのみサービスを提供することを望む。これは世界的な現象だが、中国では特に、財産権の軽視や利率の統制、不良資産に対する審査の硬直化等が要因となり、中小企業および低所得者層に対する金融サービスの不足が深刻化している。例えば、われわれが以前浙江省で行った調査では、銀行からの貸付を受けられたのは零細企業全体の20%のみであった。また、中央銀行(中国人民銀行)の信用調査システムには8.8億人の情報が登録されているが、そのうち貸付を受けた記録があるのは3.8億人のみだ。このような金融環境が活発なインフォーマル金融を生み出し、アントフィナンシャルやデジタル金融の成長の肥沃な土壌となったのである。

その一例が、マイクロクレジット事業を行う「阿里小貸」である。当時、アリババはタオバオ上のネットショップの多くに資金調達のニーズがあることに気づき、彼らが融資を受けられるよう、自ら商業銀行との提携を模索した。しかし、それらのネットショップの多くは商業銀行の融資条件を満たすことができなかったため、アリババが仲介した100社のうち、2~3社しか貸付を受けられないということも常であった。これでは焼け石に水である。そのため、アリババはネットショップの経営活動およびキャッシュフローなどのデータ分析を通じて、その信用状況を判断することにした。阿里小貸の誕生が実体経済のニーズを満足させるためのものであったことは明らかだが、そうしたニーズの出現はそもそも、既存金融機関の零細企業および低所得者層に対する金融サービスの不備という問題とかなり深く関わっているのだ。また、資産運用サービス「余額宝」もそうである。中国の金融システムは、一般庶民の投資ルートの不在という問題も抱えていた。富裕層は専門的な資産運用サービスを受けられるが、十億人以上を占める一般庶民は、銀行に資金を預けるか、不動産を購入する以外に選択肢がない。少額の資金を運用する方法はさらに少ない。余額宝の誕生は、庶民にマネー・マーケット・ファンド(MMF)の比較的高いリターンを享受できるチャンスを生み、同時に「投資したお金を随時決済に利用したい」というニーズにも応えた。余額宝は、2013年6月のリリース以降急速に成長し、提携先の天弘基金を無名の弱小ファンドから一躍、国内市場のトップ企業へと押し上げた。この急成長は、当時の特殊な金融状況、すなわち市場における資金不足と関係がある。当時は、短期金融市場の翌日物金利が一時10%以上に達することもあったのだ。それから数年後、余額宝の人気が低迷したのに伴い、アントフィナンシャルはさらに広範な投資商品を擁する「アントフォーチュン」(螞蟻聚宝。のちに、螞蟻財富に改称)を誕生させた。



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