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2019.01.18トピックス

この企業が中国人の生活を変えた――『アントフィナンシャル』巻頭序文を一部公開(4/4)

廉薇・辺慧・蘇向輝・曹鵬程『アントフィナンシャル――1匹のアリがつくる新金融エコシステム』永井麻生子訳

(黄益平氏による序文を一部公開)

アントフィナンシャルの将来を左右する第三の要素は、中国の行政上の管理・監督方針がフィンテックのイノベーションに発展の可能性を与えると同時に、リスクをもたらすということである。フィンテック業界が急成長を始めたばかりの頃、一部の専門家は、「ジャック・マーの金融における成功はコピー不可能である。なぜなら、それは実質的に規制のアービトラージ〔補注:金融機関等が金融規制の回避を目的として他の管轄権に活動を移すこと〕にすぎないからだ」と明言していた。その含意は、国による管理・監督が厳格化すれば、目下は快進撃を続けるフィンテック業界も跡形もなく消し去られてしまうだろう、というものであった。しかし、現在のところ、このような判断は現実からやや乖離している。とはいえ、中国のフィンテックの発展はたしかに監督当局の相対的に寛容な政策環境に負うところが大きい。そもそも、監督当局がインターネット企業の金融業務への参入を許さなければ、アントフィナンシャルは存在し得なかった。例えば、P2P融資プラットフォームのモデルは最初、イギリスとアメリカで誕生したものだが、一定の成功を収めているのは中国のみである。中国初のP2P融資プラットフォームである「拍拍貸」(PPDAI)がスタートしたのは2007年だが、監督部門は2016年半ばになってようやく正式に暫定管理規則を公布した。つまり、この業界は9年近くにわたって野放しにされていたということだ。

網商銀行などの個別の業務を除けば、アントフィナンシャルの多くの業務は「先にやって、後で認可を得る」スタイルである。例えば、アリペイは2003年にリリースされたが、中央銀行が交付する正式な決済業務の許可証(ライセンス)は、2011年になるまで取得していなかった。中国の監督当局がフィンテック企業のイノベーションを一撃で壊滅させなかったのは、それらの革新的な業務が実体経済に与える価値を認めたからにほかならない。QRコード決済の試行と合法化にも、同様のロジックがはたらいている。当初、監督当局はQRコード決済の安全性に懸念を抱いていたが、その実際の運用中に得られた成果を目の当たりにしたことで、これを認可し、標準化しようと決めたのである。2015年1月5日、中国人民銀行が8つの企業に個人信用調査業務の準備作業を許可する旨を通知すると、アントフィナンシャルはすぐに芝麻信用管理有限公司を設立した。中国の監督当局がイノベーションを容認してきた手法は、世界で採用されているレギュラトリー・サンドボックス方式〔補注:政府が革新的な新事業を育成する際に、現行法の規制を一時的に停止する規制緩和策〕に通ずるものがある。つまり、リスクを注視しつつ、イノベーションを容認するというやり方だ。

監督当局の方針に左右されたデジタル金融業務のもう一つの典型例が網商銀行である。自らの銀行を持つことは、アリババとアントファイナンシャルの長年の夢の一つであった。アリババは早い時期に、商業銀行と具体的な提携計画を進めていたが、誰が主導権を握るかという問題をめぐって決裂し、この計画は流れてしまった。アントフィナンシャルが主導する網商銀行は、中国人民銀行が認可した最初の民営銀行5行の候補に入っていたが、設立準備の手続きがうまく進まなかった。持株比率に制限が課されていたため、アントフィナンシャルは投資に見合うリターンが得られないと考えたのだ。網商銀行を設立した後にも、監督当局からオンライン口座開設の認可が得られないという問題が降りかかった。インターネット上でのみ金融サービスを提供する網商銀行に対するこの制約の影響の大きさは誰の目にも明らかであった。営業開始から2年以上が経っても、網商銀行は真の意味での銀行顧客を得られていない。監督当局の方針が変わらなければ、網商銀行が将来、アントフィナンシャルの重要な業務分野へと成長することは難しいだろう。

アントフィナンシャルのストーリーの終わりはまだ遠い。アントフィナンシャルは過去の成長の過程でも数々の問題を解決してきたが、さらに多くの未解決の問題があり、新しい問題も派生してきている。これらの問題を確実に解決できるか否かが、アントフィナンシャルの将来の発展の道筋と、最終的に同社がどのような企業になるのか、そして、金融システム全体に対してどのような影響を与え得るのかを決定づけるだろう。〔……〕

(権利者の許諾を得て転載しています。
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