「みすず書房」ページ内リンク

  1. 「メインメニュー」へ移動
  2. 「みすず書房の本の検索メニュー」へ移動
  3. 「本文」へ移動
  4. 「サイト利用ガイド」へ移動



2020.07.28トピックス

トニ・モリスン & スレイド・モリスン『どっちの勝ち?』 訳者の言葉

鵜殿えりか・小泉泉訳

原書のタイトルはWho’s Got Game? ──バスケットボールの選手がダンクシュートなどを決めたとき、「Who’s Got Game? イカシテルのは誰だ?」と相手のディフェンス・プレイヤーに投げたりします。モリスンはタイトルに生きている「瞬間の輝き」を込めました。
長くトニ・モリスンの文学を研究し、この絵本にさまざまな思いを込めた訳者のお二人による紹介文をお届けします。

『どっちの勝ち?』は、タイトルとは裏腹に、人との関係を勝ち負けで判断することの是非を問うています。勝ったようにみえる者が必ずしも勝ってはおらず、負けたようにみえる者も必ずしも負けてはいません。この世に単純な勝ち負けの基準などないのです。
この絵本の目的は、隣の人とよりよくつきあう術を学んでもらいたいということです。作者トニ・モリスンは、他者の立場に立って考えることこそ、多様性に満ちた今日に生きる私たちに必要な倫理的姿勢であると、訴えています。BLM(黒人の命を軽視してはならない)運動が世界規模に広まる今日、モリスンのメッセージの重要性は増しています。

モリスンが書く小説と絵本には密接な関係があり、モリスンの小説の多くはおとぎ話を下敷きにしています。おとぎ話はモリスンの創作原理の根幹をなしているのです。例えばイソップ寓話のように、簡潔でありながら、含蓄に富み、多様な読みが可能な文学こそ作家が目指すものでした。絵本とはまさにそのような表現媒体なのです。

『どっちの勝ち?』は、子どもたちだけでなく、大人もいっしょに読んで話しあうためのテーマ──生き方、職業、権力、いじめ、人とのつきあい方、学びの意義など──を提供しています。アリになり、次にキリギリスになって読んでみてください。ライオンになったり、ネズミになったりしてみてください。そうすることは、相手の気持を理解する練習になるはずです。

鵜殿 えりか

『どっちの勝ち?』は、ノーベル文学賞を受賞したアメリカの黒人作家トニ・モリスンとその息子スレイドによって書かれた、イソップ物語の「現代版」です。モリスンは、社会における子どもたちの複雑な「生」に、人一倍心を寄せてきた作家です。また、誰よりも言葉の「パワー」を敏感に感じていた作家でもありました。そのようなモリスンが、イソップ物語の驚くべき世界とその生き生きとした力に魅了されたといいます。

この絵本は、短いけれど力強い言葉で、子どもたちに自ら考える力と勇気──生きる力──を与えてくれる本です。子どもたちにとって、現実世界は歪んでみえる世界かもしれません。しかしこの絵本には、そのような世界で、子どもたちが自分の足で自分らしく、自信を持って歩いていけるようにと、作者たちの大切なメッセージが込められています。ページをめくると、アリやキリギリス、動物たち、おじいちゃんやヘビが、生き生きと話しはじめます! 子どもたちは彼らのお話を聞きながら、豊かな想像力を発揮して新たな「力」を得ることでしょう。

小泉 泉



トピックス一覧へ