誰だって神を見つけたいんだ、と僕は思う……いや、少なくとも知りたいはずだ、神が現にいるのかどうか……あるいは、いたのかどうか……それとも、これから現れるのか……それとも?
(車に乗せてもらった農夫のおじさんと)「あんたも巡礼かね」「はい」「ちいとばかし大変なことを始めちまったと思ってるんじゃないのか」
この旅に出てからというもの、自分のなかでがちんがちんに固まっていた古い型が少しずつ解れてきてるような気がする。
もうどうしていいかわかんなくなっちゃってても、笑えるってのはいいね。心から笑ってる人ってのは、まわりに合図を送っているんだ。私は危険じゃないよって。
「巡礼コメディ旅日記 -僕のサンティアゴ巡礼の道-」を読んで
ご確認ください。
石積みの無数の小山は、山の頂きにまで続いている。その一つひとつがこう語りかけているようだ。「私にやれたんだから、あなたにもやれますよ」
(帽子屋の店主と)「ドイツ人って、みんなあんたみたいな大きな頭をしてる。その大きな頭で、いっぱい考えるんだ、いっぱいすぎるときもあるみたいだがな!」
(オランダ人の巡礼者、ラリッサと)「この道って、みんな一度は、どこかでわあって泣きだすの。誰もそれから逃れられない。そのくらい遠いのよ、この道は」
(スウェーデン人の巡礼者、イーヴィと)「あのさ、宇宙が同時に縮んだり膨らんだりするってのは?」「あなた、おもしろい! あたし、大急ぎで追っかけて、友だちが縮んじゃってるかどうか、確かめてみようっと」
もともとこの巡礼の旅というのは、日々新たに始まるものだ。ひとつの旅をずっと続けているというのではなく、小さな旅を無数に重ねているという感じ。
心を照らしてほしいと願うなら、まずはまったく逆のもの、つまり己れの心を暗くすることを経験しなくてはならないようだ。
(カナダ人の巡礼者、ララと)「今日がハーフタイム、ちょうど半分歩き終えたところだ」「ねえ、知ってる? 最後まで歩きとおす巡礼って15パーセントだけなんだって」
ほんとうに友だちと呼べる人に出会いたい、そういう人に出会って、これから先の日々のことを話し合ってみたい。
美しい街はある、美しい風景もある、でも、ずっとそこにとどまっていたくなるほどに、抜きん出て、特別に美しいところはひとつもないのだ。これこそまさに真の道だ。
(ペルー人の巡礼者、アメリコと)「ところで、世界でいちばんいい本ってなぁ、わしの見るところ、ドイツから出てるね。ギュンター・グラスの『ブリキの太鼓』、ミヒャエル・エンデの『モモ』。そしてアドルフ・ヒトラーの『わが闘争』だ」
頼まなければ神は出て来ないし、そうするほうが作法にもかなっている。どういう選択をするかは僕らの自由だ。
僕らが行き着いたいちばんの悟りは、とにかく先へ進め、というものだった。アン(イギリス人の巡礼者)はもう独自の悟りを獲得している。執着しないで手放すこと、それも全部!
別棟の、戸別に入り口が付いた一室が借りられた。どうやらここは、皆さん、人に見られずに部屋のなかへと消えていきたがるところらしい。あとでペペ(捨て犬)と一緒のところを目撃されても、こいつは友だちの犬だとか、部屋を借りたあとにここに駆けこんできたんだと言い張ればいいだけのことだ。
アンとシーラ(ニュージーランド人の巡礼者)と僕の三人は、今じゃもう一心同体、またたくまに家族同然の関係を築きあげていた。シーラが面倒見のいいお母さんなら、アンと僕はわがまま放題の子供ってところかな。
人生というのは障害馬術のようなものかもしれない。魂が騎手で、肉体が馬、そして馬場が人生だ。10の障害が設定され、そこを飛び越していかなくてはならず、そしてそれは変更がきかない。
(飲み屋のおかみさんと)「次から次へと、人が転んで。あのね、あなたがたが今歩いてきたばっかりのあの谷は……魔法がかけられてるのよ。あれは『魔女の谷』なの」
(自転車で巡礼をしているオランダ人と)「あなたがサンティアゴにどんな迎え方をされるか、ぜひ見てみたいものです。サンティアゴに着いた人は、いつもその人にふさわしい迎え方をされる。いい迎え方をされるといいですね!」
この道はつらくかつ素晴らしい。それは挑発であり誘惑だ。おまえをへたばらせ、空っぽにしてしまう。残らず。そして、再建してくれる。根本から。
おまえからすべての力を奪い取り、それを三倍にもして返してよこす。おまえはその道を独りで行かなくてはならない、でないと、道はその秘密を明かしてはくれない。
20歳の頃からテレビ界に入り、人気者のエンターテイナーとしてがむしゃらに走りつづけてきたハーペイさん。2001年の夏、病気などをきっかけに自分の人生を見つめなおそうと、キリスト教三大巡礼道の一つ、スペインのサンティアゴ巡礼道(聖ヤコブの道)を、東はピレネー山脈の麓から西はイベリア半島の端サンティアゴ・デ・コンポステラまで、計800kmを40日かけて踏破した旅の日記。ドイツでは2006年の刊行以来売れつづけ、いまでは300万部を超える、ノンフィクション部門で戦後最高のベストセラー。すでに11ヵ国語に翻訳されている。
ハーペイさんはリベラルなクリスチャン。キリスト教の教理にはこだわらないけれど、神は存在すると信じている。神を探すと同時に、自分が何者かを見つけるのが旅の目的。日中は40度を越える炎天下のスペインの平原を、一日30kmも一人で歩きつづけるのはほんとうにつらい。なぜこんなことを始めちゃったのか、もうやめようか、と何度も自問しながら、それでも世界じゅうからやって来た同行の人たちに励まされ、旅を続ける。ときには過去を振り返ってしんみりとし、鄙びた教会で生と死に思いをめぐらし、またときには居酒屋で仲間と朝まで大騒ぎ。やがて孤独の内に閉じこもっていた自己を開き、心から信頼しあえる友と一緒に聖地をめざす。
日常から異界へ。ここでは風景も人間も、言語の異なるヘンテコな会話も、すべてが新鮮な驚きと観察の対象。全体を流れるユーモアと小気味よい語り口は、まさに稀代のエンターテイナーの面目躍如。とびきり上等なコメディ小説のように、一度読みはじめたら止まらない生き生きとしたリズムを愉しませてくれる。さてさて、サンティアゴ・デ・コンポステラ大聖堂へたどり着くまでに神は見つかるのか。まことに巡礼とは人生の寓話、そしてこんなにもドラマティック!
キリスト教徒には三つの巡礼道がある。第一の道はイエスの墓を詣でるエルサレムへの道、第二の道は聖ペテロの墓を詣でるローマへの道、そして第三の道は、聖ヤコブの墓があるサンティアゴ・デ・コンポステラ(星の野原サンティアゴ)をめざす道である。その道は「カミーノ・デ・サンティアゴ(サンティアゴ巡礼の道)」もしくは「聖ヤコブの道」と呼ばれている。
キリスト12使徒のひとり聖ヤコブ(ラテン語)は、英語ではセント・ジェームズ、フランス語ではサン・ジャック、スペイン語ではサンティアゴ、ドイツ語ではヤーコプと呼ばれている。またコンポステラは、ラテン語のカンプス・ステラエ(星の野原)からきているので、意訳すれば、サンティアゴ・デ・コンポステラは、「星の野原に眠るサンティアゴの墓所」ということになる。
『使徒行伝』および伝説によれば、聖ヤコブはキリストの死後、スペインで布教していたが、エルサレムに戻り、紀元44年頃、斬首され、最初の殉教者となった。その亡骸は、舟に乗せられ、風まかせの航海のすえ、イベリア半島の西端に流れ着いたという。そして長い長い歳月を経た9世紀のはじめ頃になって、なんと、この地で聖ヤコブの墓が“発見”されたのだ。
当時イベリア半島の大半はイスラム勢力に占拠されていた。キリスト教世界は、この墓の発見により、がぜん色めきたった。イスラム勢への橋頭堡を確保する絶好のチャンスが到来したのだ。以来、巡礼道はめざましい発展をとげた。
この道を辿れば、いまも中世さながらの世界が広がり、教会はロマネスク美術の傑作にあふれている。景色は雄大にして、美しくも苛酷な自然がある。美味しいワインと料理もたっぷり。スペインには、まるでタイムスリップしたかのような手つかずの魅力的な旅路がまだ残っているのだ。
巡礼の目的地サンティアゴ・デ・コンポステラ旧市街は1985年、スペイン国内の巡礼道は1993年、フランス国内の巡礼道は1998年に、世界遺産に登録された。
毎年、世界じゅうからやって来た10万人近い人が、この巡礼道を歩いている。日本人の数も数年前は年間200人前後だったのが、いまでは500人にも届く勢いになっている。くしくも2010年は聖ヤコブの聖年(ヤコブが殉教した7月25日が日曜日にあたる年)なので、巡礼者の数は倍増することが見込まれている。
1964年ドイツ西部レクリングハウゼン生まれ。スペイン語、イタリア語、フランス語、英語、オランダ語に堪能。サンティアゴ巡礼では、この語学の才を存分に生かして、世界各国から訪れる巡礼者たちと交流。1984年からTV界に入り「ハニライン」のキャスターで人気者となる。以後「カンガルー」「オールノーマル」「ハーペイが行く」「レッツ・ダンス」などの生番組やバラエティ・ショーで好評を博す。エンターテイナー、司会、コメディアンとして多方面で活躍。ゴールデンカメラ賞、バンビ賞、アドルフ・グリメ賞、ドイツ・コメディ賞、2006年ドイツ・テレビ大賞などを受賞。本書でITB(国際旅行見本市)ブック・アワード最優秀紀行文学賞を受賞。デュッセルドルフおよびベルリン在住。
キリスト教・三大巡礼路のひとつ“ザ・カミーノ”は、スペイン北部・聖地サンチャゴへ至る約800キロの道程。「カミーノ巡礼を必ずすべき」と書かれた差出人不明の手紙、迫りくる親友との永久の別れ・・・女優業に多忙な日々の中、シャーリーは旅発つことを決意する。60歳を過ぎてなお精神的成長を求める彼女が、歩きながら得た真実の人生は? 物質主義に行き詰まりを感じ始めた現代人の生き方に、新たな可能性を拓く『魂の書』。
神秘の扉を目の前に最後の試験に失敗したパウロ。彼が奇跡の剣を手にする唯一の手段は「星の道」という巡礼路を旅することだった。自らの体験をもとに描かれた、スピリチュアリティに満ちたデビュー作。
俳句界の気鋭が、「内なる道を求めて」歩き続きけた48日間、900kmにわたる聖地・サンチャゴへの旅で見つけた感動と人との出会いを俳句とともに綴った、みずみずしい“現代版の『奥の細道』”
スペイン横断800キロ!檀ふみの書下ろしエッセイ50枚!パウロ・コエーリョ(『星の巡礼』著者)と“奇跡”を見た!?ロマネスクの荘厳な教会、美しき自然、豊富な海の幸とワイン…。生きている中世、いざ聖地へ。
ガリシアは、紺碧に広がる大西洋に面した、古代から現代までの歴史的な魅力に溢れた土地。豊かな自然、食文化、歴史的文化的遺産が、巡礼者であれ、観光客であれ、ガリシアを訪れる人たちを惹き付ける。
カトリック3大聖地の1つ、サンティアゴ・デ・コンポステーラ(スペイン)。世界遺産にも指定された巡礼の道を歩き、泊まるために必要な情報を満載。
豊富な写真で綴る世界遺産カミーノ・デ・サンティアゴ巡礼。巡礼街道に花咲くロマネスク文化の華を南川のカメラ・アイで紙上に詩情ゆたかに再現。5人の巡礼体験者が語る旅の記録。