みすず書房

「古拙愁眉」とは古ギリシアの《古式徴笑》になぞらえた中国美の一表現を示す。函の表紙の伝・顧愷之「女史箴図巻」はその実例である。
本書は著者の中国美術史をテーマとする論文をまとめたものである。(1)中国美術の主流をなす「山水画」への実証と考察。(2)中国絵画発生の条件と発展、とくに六朝の時代的転換点におよぶ。(3)中国美術の理論として、歴史的に展開されてきたものの記述。(4)中国の自然、風土と美術前史。(5)中国史の固有の歴史的産物である墓誌および刻画の考察、など25篇をおさめる。
この本の面白さは、具体的なものに即して、学問のあり方を縦横無尽に示したところにある。読者はそのテーマについて充分に理解するとともに、精妙な感受性と堅実な推論のドラマチックな、立体的な格闘の過程を著者とともに経験する。こうしたセミナー的な感銘は、一般にきわめて稀で貴重なものといえよう。
著者は1944年、中国大陸で戦病死、惜しみてもあまりあることであった。その主著をいまここに公刊できるのは大きな喜びである。