みすず書房

グーテンベルクの銀河系

活字人間の形成

THE GUTENBERG GALAXY

判型 A5判
頁数 528頁
定価 8,250円 (本体:7,500円)
ISBN 978-4-622-01896-4
Cコード C1010
発行日 1986年2月20日
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グーテンベルクの銀河系

「これまでいずれの文学理論家もついぞ開けなかったドア、経験のなかにおける安定性の問題についてのまことに大きな扉がここにあるといわねばなるまい。わたしの考えではブレイク以来だれも認めたことのなかった扉なのだ。ブレイクについていえば、マクルーハンはとことんまでブレイクの後継者である」(G.スタイナー)

グーテンベルクによる印刷技術の発明は、人間の歴史と文化にたいし、いかなるインパクトを与えたか。書物(活字)を読むという行為は、人間の知覚=精神をどのように変容させたのか。口語文化と活字文化はどう違うのか。本書は、これらの疑問にたいするマクルーハンの詩的洞察に満ちた応答である。著者は、西欧近代の形成において印刷技術が果たした決定的な役割を詳細に検証してゆく。ホメロス、シェイクスピアはもとより、ポープ、ジョイスからド・シャルダン、さらにはダンチッヒにハイゼンベルクまで、古今東西にわたる博引傍証によって、活版印刷をめぐる壮大な《グーテンベルクの銀河系》が描き出される。部族共同体の時代から中世・ルネッサンスを経て近代に至る広大な歴史の流れのなかで、活字(書物)が視覚強調を促進することで聴覚・触覚を抑圧し、近代のテクノロジー・個人主義・ナショナリズム等を形成したプロセスをモザイク的方法によって浮き彫りにしてゆく。活字文化と電気=電磁波テクノロジーによる文化(映画・テレビ等)が競合している今日、活字文化を再考し、新しい文化創造を構想する上で、本書は、ブレイクにも似た予言者の書といえよう。

目次

前書き
序章

グーテンベルクの銀河系
リア王が……/人間は剥奪されることで……/第三次元の苦悩は、『リア王』の……/表音文字技術が精神構造として……/精神分裂病は文字使用の……/〈文字〉のようなメディアの……/文明は未開人、もしくは部族的人間に……/現代の物理学者にとって……/電子技術による新しい相互依存は……/文字使用はアフリカ人の……/非文字社会の人間は……/アフリカ人の観衆は映画を見るとき……/五感のひとつが技術によって……/文化変容の理論は……/20世紀における文化の……/現代の読みや綴りについての……/ハリルド・イニスが先駆けて……/ホメロス的英雄は自我を……/アルファベット技術の精神への内化……/芸術と年代記におけるギリシャ的〈視点〉は……/ギリシャ人たちが彼等の芸術上、学問上の……/ギリシャ芸術と中世芸術の連続性は……/ギリシャ人の間で視覚強調が……/遊牧民社会は閉じこめられた空間を……/原始主義は多くの現代芸術と思想における……/本書『グーテンベルクの銀河系』は……/20世紀の方法は、実験開発にあたって……/活版印刷文化は文字使用の歴史の……/今日に至るまで、文化とは……/画一化と複写反復の技術は……/〈現代的〉という言葉は……/古代および中世においては……/写本文化は会話的であった……/写本はあらゆるレヴェルで……/学童間に伝承される……/中世の僧侶の個人読書席は事実上……/中世の聖歌隊教育では……/中世の学生は自分が読む著作者たちの……/アクイナスは、なぜソクラテス、キリスト……/12世紀におけるスコラ哲学者たち……/スコラ哲学はセネカ主義のように……/写本文化とゴシック建築はともども……/中世の彩飾文字、注解、彫刻は……/口語文化の人間にとっては……/情報量の増大というただそれだけの……/文語型知識構造と口語型知識構造……/中世世界の幕切れは応用知識の大流行……/ルネッサンス時代のイタリアは……/中世的幻想としての王……/活版印刷の発明は……/固定された視点は印刷術とともに……/〈暗箱〉という〈自然奇術〉が……/聖トーマス・モアはスコラ哲学の激流に……/写本文化は、活版印刷文化によって……/中世における本の売買は……/散文で文章を書く際には……/中世後期に生じた視覚強調は……/ルネッサンスの〈界面〉は……/ピエール・ド・ラ・ラメおよびジョン・デューイは……/ラブレーは印刷文化の未来像を……/称賛のまとであるラブレーの野卑な触覚性は……/手工業の最初の機械化としての……/人間によって考案され、〈外化された〉……/グーテンベルクとともにヨーロッパは……/ルネッサンスの応用知識は……/活版印刷は言語を認識と探究の手段から……/活版印刷術はひとつの技術であった……/厳密な計測への情熱が……/印刷がもたらした頭と心の分裂は……/マキャヴェリ的精神と商人気質は……/ダンチッヒは、表音文字の新技術によって……/数字がユークリッド的空間を……/16世紀における芸術と科学……/〈近代〉をPRする声としての……/中世の書物としての自然観と……/ベーコンのアダムは中世的神秘主義者……/量産された印刷のページは……/アレティーノはラブレーや……/マーローは、無韻詩という国民的な……/印刷は、民族語をマスメディアという……/詩と音楽の分離は……/ナッシュの散文の口語的多声法は……/最初印刷機械は、シェイクスピアを……/本が持ち運びできるようになったことは……/印刷の画一性と反復可能性は……/活版印刷の論理は〈アウトサイダー〉……/セルヴァンテスはドン・キホーテ像というかたちで……/活字人間は印刷技術文化の構図を……/歴史家たちはナショナリズムが……/ナショナリズムはすべての個人……/クロムウェルとナポレオンの市民軍は……/スペイン人たちはムーア人との……/印刷術はラテン語を純粋にした……/活版印刷の性格が拡張されるとき……/印刷物は綴りや文法だけではなく……/語形変化と言葉遊びの一掃が……/印刷は画一的な国民生活や……/非文字社会においては……/生活とことばのなかから……/活字人間の新しい時間感覚は……/意識生活を裸にし、単一レヴェルへと……/哲学も、活版印刷が前提としている……/ハイデッガーは、デカルトが……/活版印刷は沈黙の声を……/グーテンベルクの銀河系は理論的には……/ポープの『愚物列伝』は……/新しい集団無意識を、ポープは……/機械的に応用された知識が……

再編成された銀河系 またの名、個人主義社会における大衆状況

原注・訳注
訳者解説——マーシャル・マクルーハンについて
訳者あとがき
マーシャル・マクルーハンの著作・邦訳文献目録
人名・書名索引