みすず書房

自明性の喪失

分裂病の現象学

DER VERLUST DER NATURLICHEN SELBSTVERSTANDLICHKEIT

判型 A5判
頁数 280頁
定価 6,160円 (本体:5,600円)
ISBN 978-4-622-02192-6
Cコード C3047
発行日 1978年7月10日
備考 現在品切
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自明性の喪失

ここに登場するただ一つの症例はアンネ・ラウという女性で、睡眠薬自殺をはかり入院したのは20歳の時であった。「あたりまえ」ということが彼女にはわからなくなった。「ほかの人たちも同じだ」ということが感じられなくなったのである。彼女の自己表現は緻密で、豊かな内容をもっていた。この症例は大多数の臨床病像の基礎にある普遍的なものを、純粋な形で示していた。

人間には、もともと自明性と非自明性とのあいだの弁証法的な運動がそなわっている。疑問をもつということは、われわれの現存在を統合しているひとつの契機である。ただしそれは適度の分量の場合にかぎられる。分裂病者ではこの疑問が過度なものになり、現存在の基盤を掘り崩し、遂には現存在を解体してしまいそうな事態となって、分裂病者はこの疑問のために根底から危機にさらされることになる。分裂病者を危機にさらすもの、それは反面、われわれの実存の本質に属しているものである。だからこそ分裂病はとりわけ人間的な病気であるように思われるのである。

著者は1928年、ドイツのブレーメンに生れた精神病理学者。ビンスヴァンガーの現存在分析を継承しさらに幅広い哲学的考察をすすめる。また新しい精神分析理論、社会精神医学、反精神医学にも深い関心をもつ。テレンバッハと共に現代ドイツの精神病理学界を代表する一人である。

目次


日本語版への序
I 寡症状性分裂病の精神病理学的・臨床的位置づけ
II 「基礎障碍」への問い
III 現象学について
 A 自然的態度の内部での現象学
 B ヤスパース的な意味での現象学
 C フッサールの方向での現象学
 D 生活世界からみた分裂病者の疎外
IV 臨床的経験
V 病歴と面接記録
VI 精神病理学的・疫病学的考察
VII 自然な自明性の喪失に関する精神病理学的問題と人間学的問題
VIII 現象学的解釈
 序論
  1 自然な自明性の背景的・基礎的性格
  2 方法的通路
  3 分裂病性疎外とエポケー
  4 問題の予備的概観
 A 世界との関わり
 B 時熟
 C 自我の構成——自然な自明性と自立
 D 他者——自然な自明性の喪失の間主観的構成の問題
IX 内省的疎外と非内省的疎外
X 総括

訳者あとがき
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