みすず書房

20世紀の始め、1901(明治34)年の春、わが国初の社会主義政党たる社会民主党が産声をあげた。この創設に加わった者6名——片山潜、安部磯雄、幸徳伝次郎(秋水)、木下尚江、河上清、そして西川光二郎。先の5人については各々詳しい伝記・回想があるが、しかし、ひとり西川のみ、略伝あるにすぎない。本書は、この明治社会主義者中6番目の男・西川光二郎に関する初めての伝記である。
西川は1876(明治9)年淡路島に平民の子として生れ、自由民権の空気の中で育ち、大和郡山中学・札幌農学校・東京専門学校(現早稲田)と学び、キリスト教について社会主義の洗礼を受けた。西川の社会主義時代は64年の生涯中、4度の獄中生活を含めておよそ10年、その間よく講演をなし、多くの支持者を得た。しかし大逆事件の夏、出獄するや、社会主義から離脱を宣言、以後雑誌『自働道話』を中心に修養を説き、全国を巡講し、民衆の間にまた別種の影響力をもつこととなる。
この西川の離脱宣言をどう読み込むか、評価の分れるところである。本書は、この西川の歩いた軌跡を裁断することなく、事実によってのみつなぎ、そのユニークな生涯を詳細に辿っている。これは日本近代精神史に底流する一つの流れを照射した貴重な資料であり、左右両翼の歴史研究に新しい視点を喚起する出色の伝記である。

目次

はじめに
1 淡路島の平民
2 土地持ちの三男
3 尋常中学生
4 札幌と社会主義
5 上京
6 社会主義
7 筆と舌と
8 離反
9 平民社
10 筆禍と結婚
11 凡人社
12 分派
13 離脱へ
14 離脱・転向・変節
15 新生
16 新真婦人会
17 『自働道話』
18 地固め
19 大震災
20 論語会社
21 『青年の誤解』
22 満州事変
23 樺太・満州・朝鮮
24 五・一五前後
25 非常時
26 銃後
27 終章

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著作目録
評論等所載逐次刊行物一覧
あとがき